「で、それだけなの?」

親友のヒロトが急かすように話しかける。

「でも、私にとってはすごい進歩で…」

「甘い!甘すぎる!」

一喝して私にズイッと近づいた。

「そこでチューぐらいかましてやりなさいよ!」

「そ、それは無理だよ…」

「それじゃ前と一緒!付き合うなんてまだまだ遠い!」

極論ではあるが、ヒロトの言うことも一理ある。
あれ以来特別距離が縮まったわけではない。
確かに前より話す回数は増えたように思える。
しかしもう、卒業まで時間がないのだ。
のんびり仲良くなっていきましょう、という訳にはいかない。

「今日話しかけなさい!帰り方向同じなんだから、一緒に帰りなよ」

有無を言わさない彼女の説得に、私は承諾せさるをえなかった。


放課後、南雲が教室を出るのを待って、自転車置き場にむかった。

自転車置き場行くと、南雲はヒートと一緒にいて、帰る準備をしていた。

「ひ、ヒロト…。どうしよう…。」

「ああ、もう!アタシが引き付けておくから、頑張って誘いなさいよ」

そう言うとヒロトはヒートに話し掛けた。
付き合ってほしいところがあると言って、引っ張るようにして共に帰っていった。

南雲は基山に、邪魔して悪かったな、と茶化しながら見送っていた。


自転車置き場にはわたしと、南雲だけになった。


「凉野」

南雲が私に話しかける。
南雲は私に対して、ヒロトと話す時のように馴れ馴れしくはしない。
少し、距離を置いているように感じる。

「お前も基山にフラれたのか?」

彼が笑う。
私も、つられて笑った。

少し間があいて、気まずくなる。

じゃあ、と帰ろうとする南雲に勇気を出して話しかける。

「一緒に帰らない?」




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