「今からお前の部屋、行くからな」

また始まった。
いつもの合図を耳元で囁かれる。

「私はそういう気分じゃないんだが…」

「俺がやりたいんだよ」


返事を聞こうともせず、南雲は手を掴み強引に私の部屋まで引っ張っていく。

いつもこう押しきられる。
彼は私の意志など聞く気がないのだ。

南雲にベッドに押し倒され、さっさと服を脱がされる。

「もう少し優しくしてくれ…」

「うるせえよ、黙ってろ」

目も合わそうとしなかった。
手で口を塞がれ、喋ることができない。
ほんとにどうかしている、私を犯す彼も、体で引き留めている私も。

彼は私に興味があるわけじゃない。
キス1つすらしない淡白な関係だ。
元々普通よりは近い関係ではあったが、別に特別な感情を持っていたわけではない。
少なくとも彼にとってはそうだろう。
たまたま身近にいて、手を出しやすかったから。
いつまでも平行線上の関係のまま。

ベッドのスプリングがギシギシと音をたてる。
女みたいに喘ぐ私は端から見ればさぞ滑稽だろう。

彼の程よい筋肉に抱き締められ、気持ちがよい体温に抱かれる時間は何だかんだで好きだ。
ずっとこうしていたいと思う。
でも、南雲は、行為後すぐ私の部屋から立ち去ってしまうから。
出ていく瞬間を見ることない分マシかもしれないが、それでもやっぱり寂しい。


練習後で疲れきってるせいもあり、意識が飛びそうになるが、南雲はそれを許さない。
結局私はその後何グラウンドも付き合わされ、疲れきって眠りについた。







「(腰が、いたい…)」

私はクシュン、とくしゃみをする。
いつもなら数時間で起きるのに、この日は朝まで眠っていた。
裸で朝まで寝ていた上、窓が全開だったから風邪をひいてしまったようだった。

最悪だ。
今日はプロミネンスとの練習試合だというのに。
しかし、キャプテンの私が休むわけにはいかない。
悲鳴をあげる体を引きずって、グラウンドへと向かった。

到着するともう全員揃っていて、準備は出来ているようだった。
南雲が遅いぞと悪態をついたが、無視をした。
言い返す余裕はない。

「じゃあ全員揃ったから、始めるぞ」

南雲が肩をならしながら、めんどくさそうに言う。

試合が始まっても、体が思うように動かず足が縺れそうになる。
ノーザンインパクトもうまく決まらず、ゴール外へとボールが飛んだ。

ダイヤモンドダストのメンバーも異変に気がつき、心配そうに見つめてくるが、無視してボールに食らいついてゆく。
バーンに負けたくない。認められたい。
その気持ちだけが私の体を動かしていた。


「ガゼル様!!」

ふと気が付くとボールが目の前に迫っていた。
避けようにも既に遅く、顔面に直撃してしまい、スローモーションのように崩れた。
そこで私の意識はなくなった。






気がつくと私はベットの中にいた。
ふと横を見ると南雲がしかめっ面で座っていた。

「バカじゃねーの、お前」

ボソッと呟いた。
ああ、私は倒れたのか、とようやく状況を理解する。

「…試合は?」

「俺ら抜きで続行してる。」

「そうか、迷惑をかけてしまったな。」

「熱出してんのに意地張って、グラウンドに立つんじゃねーよ」

そっぽを向いて南雲がボソッと独り言のように呟く。

それから二人とも黙りこくってしまい、とても空気が重くなった。
いつも、私達はどんな話をしてたっけ。
沈黙が息苦しくて仕方ない。

「…俺、試合に戻るわ。もう大丈夫だろ?」

耐えきれなくなったかのように南雲が立ち上がる。相変わらず私の方など、見向きもしないで、背を向け帰ろうとする。

「待て、帰るな。
私の風邪は昨晩君に散々付き合わされたからひいたんだから。」

後ろから南雲の服の裾を掴んで、帰れないようにする。

「ハァ?そんなもん自己責任だろ、知るかよ。」

眉間に皺を寄せて、うっとうしいとばかりに、睨み付けてきた。

「行くな。
…行かないで。


そばにいてよ…」


どうしたんだろう私は。
自分が自分でうっとうしい。
私を好きにならない彼なんかに、甘えたくはないはずなのに。
私を見てくれない彼なんかに、甘えたくはないはずなのに。

南雲はため息をついて、ガタッともう一度イスに座った。

「わかったから、大人しく寝てろ」

私の髪をガシガシを乱暴に撫でる。

「ホント?行かないでよ?」

「ハイハイ、わかったから。」

彼の手を念のため捕えて、握りしめておく。
握る、というよりは、抱きしめている感じだけど。


ふと南雲へ視線をやると、ここにきて初めて目が合う。
目と目が合うのはいつぶりだろうか。

「ったく、お前は昔から甘えベタなとこは全然変わってないな。」

「そうかな。
そんなつもりはないのだけれど。

…君は、南雲は、変わってしまったね。」

本音がポツリとこぼれる。

「昔はほら、
ずっと傍にいたじゃない。

私が泣いたらすぐ駆けつけて慰めてくれたし、抱きしめてくれた。
私が甘えたら、笑って応えてくれた。

君は私を好いていてくれたと思うし、
私も君のことが大好きだったよ。」

ねえ、今はどう?
とは聞けなかった。
君の嫌そうな顔はもう見たくない。
本音を言うことさえも恐くなってしまったというのか。

思わず涙が溢れる。
泣き顔を見られたくなかったから、私はうつむいた。

「…俺もさ、」

「…………?」

「俺も、昔から変わってないよ。」

よく意味が分からなかった。
彼は一見単純な性格をしているように見えるけど、実はなかなか気持ちを汲み取るのは難しい。

「……どういうこと?」

「だから、お前のことを嫌ったことはないんだけど。」

「じゃあ、私のこと好き?」

「嫌いじゃないよ。」

穏やかに笑って言う。
南雲のこんな顔は久しぶりに見たような気がする。

そのまま南雲は私の背に手を回して、私を引き寄せた。
手を添えて優しく触れるだけのキスをした。

「風邪、うつるよ?」

「俺は風邪ひかねーよ」

どこからその自信はくるのだろうか、対して気にする素振りも見せなかった。

「キスは、するの初めて、かな………。」

涼野は安心したみたいで、満足そうな顔を見せて、そのまま眠りについた。
俺は横でじっとその横顔を見つめていた。




(…ホントは、
初めてじゃないんだけどな。

照れ臭くて、眠っている時にしかできなかっただけで。)

涼野には秘密にしておいた言葉。
伝えるのはまだもう少し先になるだろう。


あれから涼野は前より甘えてくるようになって、俺はそれに応えてやるようになった。
俺達は少しだけ、昔の関係に戻れた気がする。









素直になれなかった恋を、ここから始めよう。

彼氏以上、恋人未満










久しぶりに書いたら
オチなしヤマなし。
前半をあんまりいかせれなかった(+_+)

キリリク熱出し南涼です。長らくお持たせしました。

勢いで一回手を出したら収拾がつかなくなって、どうしたらいいか分からなくなりました!っていう南雲の気持ちを書こうとしてたはず(;´д`)ヒイイ

葵様、リクエストありがとうございました!

2010/12/03



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