※死ネタ
相変わらず長いので注意
nueという曲をイメージソングにしました
http://www.youtube.com/watch?v=uh3ohX_ZL1Y








「ヒート、かい?君も来ていたんだね。」

「懐かしいですね、その名前は。」

そういって彼は笑った。



夏も終わりかけたある日の事。
10年ぶりに来た樹海はとても蒸し暑かった。
辺りは蝉の大合唱が繰り広げられ、木々は青く生い茂る。



私達は24歳になっていた。


「まさかこんなところで会うなんて。
僕は毎年訪れていたんですけどね、ガゼル様は初めてでしょう。」

「ああ、懐かしいな。今はもう跡形すら無くなって、まったく面白味がない。」


十年前、私達はここで暮らしていた。
ひたすらにサッカーに夢中になった思い出の場所。
今となってはぼんやりとしか思い出せなかった。

建物が崩壊した後は、皆は散り散りとなり、ひっそりと暮らしていた。

きっとそれぞれに成長したのだろうか、
私が今連絡をとることが出来るのは瞳子さんとグラン、それからヒートぐらいだから、定かではないけれど。



そして彼は時を止めたまま。
私達は長い人生を歩んでいくというのに。

「晴矢に会いに来たんですか」

「君もそうだろう、私はやっと踏ん切りがついたところでね」

「…ガゼル様は、あれ以来泣いたこと、なかったですものね。
小さな頃は泣き虫だった記憶がありますが。」

「忘れてくれよ、昔の話は。」

だいたいこんな年になって泣く方がおかしいだろう、と私は笑い飛ばした。



今日は南雲晴矢の命日だった。彼は、十四という若さで没した。
私は死因を知らない。
あの頃の私は人と話せる状態ではなかったから。

いまさら聞こうとも思わない。
最早、私にとって理由とか原因だとかは興味を惹くものではない。
死因を聞いたって彼が帰ってこないのは知っている。

十年という時を経て、私は彼の顔すら曖昧になった。
あんなに悲しかった彼の死が、すでに薄れているとは時も残酷なものだと思う。

「会いに来たという言葉には語弊があるかもしれないな」

「へえ、どういう意味でしょう」

「私は会いに来た訳ではなく、彼への未練を絶ち切りに来たのさ。」

「そうですね、そろそろガゼル様も彼女の1人くらいいてもおかしくありませんよ。」

ヒートは相変わらず私に気を使う。
未だに様付けなどして、私の話を淡々と聞いてくれる。
それが、彼という人なのだな、と思った。




風が、私の気持ちを汲むように音をたてて鳴り響く。

もし、私の人生が彼の存在があって意味を成すというのならば、
私がそれを断ち切るまでだ。




「ふーすけは、ホント泣き虫だな!」

幼い彼の声が聞こえる。
あれはいつの事だっけ。
ああ、お日さま園にはいって間もない頃だ、

私と晴矢の仲良くなりはじめの頃。


「泣いてちゃ、幸せは逃げてしまうぞ!」

私は泣いてばかりでヒックヒックと声をもらすだけ。

「ああ、おいっ、いい加減泣き止めよ!
何があったんだ?」

「はるやが、死ぬ夢、見て…」

「ばか、お前、オレは死なねえ。そんなことで泣くな。
…ずっとお前の傍で慰めてやるって約束するから、泣くなよ。」

「ほんと?ほんとだよ?じゃあ約束だよ」

そういって笑いあった。

昔のことだ。
こんな戯れ言みたいなこと未だに覚えているなんて、馬鹿馬鹿しいと我ながら思う。
今にも、晴矢がとなりで笑って、私を肩を抱きそうなくらい鮮明な記憶として私の脳に刻み付けられているなんて。


「あの時はすまなかったね、色々心配をかけてしまった。君だって辛かったろうに。」

「いえ、こうしてガゼル様が元気になられたことが嬉しいですよ。」

「散々物分りが悪いように駄々をこねていたが、
私は晴矢が本気で帰ってくると思っていた訳じゃないんだ。
もう会えないことなんて、とっくに分かっていた。
ただ、やっぱり寂しくてね。

そもそも私は天国や地獄というもの信じていないんだ。
あんなものは死後を恐れる人間が創造したものに過ぎない。

neuという言葉を知っているかい。
ドイツ語で新しいという意味を指す。
私は魂は無に帰ると思っている。
何もわからなくなるんだ、きっと、私達は。

肉体は、土だとか水だとか新たなものに姿を変えて前のものは消滅する。
そこから魂、つまり精神が生まれて動き出す。
ある意味では輪廻、に近いかもしれない」

ヒートは黙って聞いていた。
そして同意も否定もせずいつもと同じ顔で、ポツリと言った。

「そうならば、また、運よく人間に生まれ変わった
晴矢に会えるかもしれませんね」

「私は別に、会いたいなどとは…」

「そうでしたね」

ニコッと微笑んだヒートにかわされる。
しばらく会わないうちに随分と器用な人間になったものだ。
ヒートも晴矢の後ろをついて回るタイプの人だったのに、
彼もこうして成長しているのだ。



私達は奥地まできて晴矢のお墓参りをした。

こうして対面するのは初めてのことだった。
しかし当たり前だけど、特別何かが変わった気はしない。
私は、今日、ここにきて彼への思いを断ち切ることができたのだろうか。

そう疑問に思いつつも帰路につくことにした。
ヒートといる時間は意外にも楽しかった。
エイリア時代と違って、対等に、腹をわって話せるようになったからだろうか。


「ガゼル様、川の流れが急ですから、気を付けてくださいね。」

「わかってる………、っ!?」

突然の風に煽られる。
私は言われたそばから川に落ちてしまった。

「なっ…」

川の流れが強いだけじゃない、
何かに引っ張られるようで、岸辺に這い上がることができないのだ。

そうか、今日はお盆だった。
死者が引きずり込むという迷信があるが、
まさかこれもそうなのだろうか。

慌てるヒートの姿を最後に私は意識を失った。












ここはどこなのだろう。

色に例えると真っ白な世界で、まるで視力を失ったようだった。


私は川に流されたのか。
だとすればここは、生と死の狭間とでも言うのか?
ありえない。


誰かが私を呼ぶ声がする。
誰だい、とても懐かしい、ああ君は…





「ガゼル」

姿はわからない。
声だけがする。

「しょうがないやつだな、こんなところまで来て」

私の、大好きだった声が私を包み込む。




「なあ、泣くなよ」



そう言われて自分が泣いてることに気づく。
ああ、あんなに泣かないと決意して生きてきたというのに。

慰めてくれる人が、
バーンが、
傍にいないと私は生きていけないから。



「泣くなよ。」

「わたしは…晴矢がいないとダメだよ…」

「俺はもう、傍にいてあげれないから。
気負うな。
忘れて、次に進めよ。」

「はるや…」

「お前との、約束守れなかったな。
ごめんな、



ありがとう。」


あたりが光って、何も見えなくなった。
もう声は聞こえなかった。

私は涙でいっぱいになった瞳を、そっと閉じた。










「ガゼルさま!」

ヒートの声で私は目覚めた。

「ガゼル様、よかった、目を覚まさなかったから…」

どうやら私は川に流されて、病院に運ばれたらしい。
よく生きていたものだ。

自分の運に惚れ惚れする。



結局あれは私が作り出した夢だったのだろうか。
こんな年にもなって号泣してしまったとは。
私はどれだけ、強がって、晴矢に依存したまま生きてきたのだろう。

晴矢が私を縛り付けていたのではなく、
私が晴矢を縛り付けていということを思い知らされてしまった。
情けない話だ。


「ああ、雨が振りだしましたね…
ガゼル様、窓閉めます。」

窓の外は真っ暗だった。
まるであの世界とは真逆の世界だ。

「涙雨、というのかな。」

「ガゼル様、なにかおっしゃりました?
雨の音で聞こえなくて。」

「いや、ただの独り言だよ。」

涙雨とは悲しみの涙が化して降るといわれる雨だ。
果たして私の涙か、それとも彼の涙なのか。




この涙で最後にしよう、彼の為に泣くのは。
彼といた時間は長い人生から見たら短い時間だった。
長い人生を共に歩む運命の人ではなかったのだ。
それでも忘れられない人にはかわらないけれど、
これで彼をあの約束から、解放してあげられるはずだ。










きっとこれは最後から二番目の恋。
私はやっと終止符を打てる。











きっとそれが、最後に見る夢だから









長いw
でも書けて満足です。
最初は黄泉がえりの如く、ガゼルも死んでましたっていう
オチにしようかなと考えてました。

死ねたはその人の小説を書く技量が問われますね…うへ

少年ラジオさんのnueの意訳を貼り付けておきます
訳は人それぞれ違うと思いますが…
バーンサイドの視点といったところかな。


最後まで読んでくださりありがとうございました。

ある明るい月曜日 僕が寝過ごしたら 世界は唐突に終わっていた
ある明るい月曜日 世界はいとも簡単に終わっていた

それは最後の審判の日みたいで 考えは負の方向へ進んだ
そうだ 最初から何も無かったんだ
だから僕はただ呟いた

(今までとは何もかもが変わってしまった)

何もいらない
光も闇も
夜も昼も
笑顔も慟哭も
君も僕も!

(この新しい世界で)

三つ星が彼の目を捉えた
憂鬱な音楽が僕を捕まえた
決着がつけられる
光も闇も
夜も昼も
笑顔も慟哭も

(ああ、未知の世界だよ、まったく!)

2010/11/20




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