鍾会には性交の知識はあれど実践経験が無い。よって当然姜維が手引きすることになる。
姜維はあの晩、娼妓の如くありとあらゆる技術を持って鍾会を良くさせることに専念した。
どうせ自分がこの男を相手に情愛を抱くことなど無いのだ。万が一にも抱いてしまえば、それはそれでたちが悪い。
自身の快楽など元より度外視。
ただ、この身をもって鍾会を虜にすることさえ出来れば良い。

姜維は乱れた着衣をそのまま被ると、下半身に重たく残る不快感を引き摺って浴場へと向かう。
歩いた後には紅と透き通った液体が滴り落ちたが、それを気にも留めずに覚束無い足取りで歩みを進めた。
汗が肌を湿らせて気持ちが悪い。早く清潔にしたい。
それ以上に、生々しく残る行為の証を一刻も早く掻き出し、洗い流してしまいたい。
姜維の中で鍾会の放ったものが嫌と言うほどに存在を主張する。

湯を被って外面の液体を落とし、自身の蕾に指を入れる。
深く突っ込むと内臓を抉られるような圧迫感が姜維をたまらなく不快にさせた。
掻き出された精は水音を伴って下へと落ちていき、流れていく。
男の癖に男に抱かれた。それも祖国の仇に。
これを丞相が目にしたらなんと言われるであろうか。もう二度と顔向けなどできぬ。私は、汚い。
噛み続けた唇が痛む。
いつの間にか姜維の瞳からは涙が零れ、被った湯と共に落ちていった。

姜維は丹念に身体を拭いて服を身に纏う。濡れた髪の毛を女官にとかせると、長い髪を纏め、いつも使用している髪留めで留める。

「ここにいたのか、姜維」

一晩中投げ掛けられた声色に振り替えると、すっかり普段着ている着物に着替えた鍾会がいた。
一礼をし立ち去る女官に目を配ると、視線を鍾会へ戻し、御早う御座いますと声をかける。
ああ、と生返事をした鍾会はそのまま姜維の隣へ向かうと、しげしげとその束ねられた髪に光る髪留めを見つめた。

「その髪留め……なかなかの品だが、一体何処で手に入れたのだ?」
「ああ、これは私がまだ天水にいた頃、母上に頂いたものだ」

そうか、と答えると鍾会は顔色を変えた。

「私の使っている結紐も、母上から頂いたものだ」

意外だった。彼が他人から貰った物を使うような人には見えなかった。
そもそも彼は人に与えるばかりで、自分が何かを受けとるということはしない人間のように思えたのだ。

「鍾会殿の母上、か」

彼の母についてはあまりよく知らない。唯一聞いた情報は、蜀が降伏した頃にはもう亡くなっていたということだけだ。

「母の事を話してもいいか」

鍾会は姜維が頷くのを見ると、付近の腰掛けに座り、口を開く。
軽くうつ向いたその顔は姜維が今までに見た中で最も真剣な、それでいて悲哀に満ちた表情だった。

「私の母は聡明な方だった。幼い頃より私に勉学を授け、立派な人間になれるよう指導して下さった。……今の私があるのは紛れもなく彼女のおかげだ。だが、彼女が本当に私を愛してくださっていたのかはわからない。彼女は私を自分の作品にしたかっただけではないかとすら思えてしまう」

鍾会が溜め続けてきたであろう心情を吐露する度に彼の一重瞼が弱々しく瞬きをする。
頬に光る濡れ跡を見て、姜維は初めて鍾会が泣いていることに気がついた。

「鍾会殿……」
「変な話をしてしまったな。……すまなかった、姜維」
「いえ、それよりも……」

姜維は続けようとしたが、制止するように上げられた鍾会の手を見て言葉を飲み込む。
少し一人になりたい。そう言って鍾会は立ち去る。
見慣れた背中はいつものそれとは違う、弱々しいものだった。

/続きます

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