澄みきった空の下、豪勢な洋館に乾いた銃声が2発響いた。
駆けつけた女中の叫び声と共に館中の使用人が駆けつける。開いた口を両手で押さえ、見開いた目を横たわった男と立っている男に交互に向ける。
人殺し!人でなし!
とめどない罵声が使用人によって拘束された男に浴びせられ、横たわった男にはとめどない涙が浴びせられた。
横たわった男はみるみる顔が白くなり、拘束された男は何も言わずどこか遠くを見つめていた。

護送される中でも男は黙ったまま、遠くを見つめ、他に目を向けようとしなかった。人々はそれを気味悪がり、一層激しく罵った。

その次の日、新聞に大きな見出しで貿易商殺しの記事が書かれた。被害者の名は鍾会。そして犯人の名は、清の外商、姜維。世間では金に目の眩んだ友人殺しとして知られたが、本当の動機を知るものは誰もいなかった。


なぜ彼を殺したか、今でもよくわからない。ただ、殺さねばと思ったときにはもう引き金を引いていた。
あんなに愛しかった彼も、彼の温もりも、今となってはどうでもいい物へと化した。私には、今も昔も丞相しかいない。
……丞相とは誰のことだ?
わからない。思い出そうとしても思い出せない。ただ、私は昔から彼を知っていて、その時も彼を殺そうとしていたのだと思う。その時も彼は私を愛して私を抱いていた。その時の私には愛情などこれっぽっちも無かったような気がする。
私が全ての愛情を注いだ人はとうに死んでしまっていたから。
丞相の遺志を継ぐため、蜀を再興するため、私は……。蜀とはなんだ?私は何を考えている?
わからない。もうなにもわからない。赤子の如く、わからない事だらけだ。
もう考えるのも飽いてきた。何もかもがどうでもいい。それでも蜀だけは、





桜が満開になる頃、 銀座近くの留置場で姜維という男が舌を噛みきって死んだ。
結局姜維は留置場に入ってなお、黙秘を貫き通し、動機については何もわからずじまいだった。
姜維の遺体は壁に背を預け、何かを叫ぶように口が開けられた状態だった。
そして壁に付着した血痕はまるで天へ登らんとする龍とそれを見上げる麒麟のように見えたらしい。

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