時が立つのは早いもので、姜維と鍾会が恋仲になってから半年が経った。
外は桜が花をつけ始め、石畳は落ちてきた花弁で桃色に染められている。
街を行く人々は相変わらず着物と洋服が混在しているが、桜を目にする人々の表情はどこか明るく見えた。


予定より取り引きが早く終わったので、姜維は鍾会の館へと足を向けた。
見慣れた顔の使用人は名乗らずとも自分を中へ通す。鍾会に言いつけられているのだろう。
深紅の絨毯の上を歩いて奥の間へ繋がる扉の前に立つと、使用人が開けるまでもなく中から扉が開けられた。

待ちかねたよ、の声に軽く挨拶を返し部屋に入ると、使用人は外に出て完全に二人きりの状態になる。
鍾会に誘導されてソファに座ると、戯れに口付けを交わした。

仕事の話、近況の話、他愛もない話。
次から次へと二人の話題は絶えることなく続いた。但しずっと話をしていたかというとそうではなく、気紛れに抱き締めてみたり、口付けてみたり、それをされて照れてみたり、などがあいだにあったのだが。

「ああ……もうこんな時間だ。いつの間に」

ふと時計を見た姜維が言う。壁沿いに置かれた振り子時計は午後10時を示していた。

「全く、あんたと話していると話がつきない。今日は泊まっていくといい。家にはこちらから知らせておこう」
「いつもすまないな、礼を言う」

鍾会はお互いさまだ、と返すと使用人を呼びつけて、姜維の家に使いを出すように言いつけた。

再び二人きりになった部屋で、鍾会は姜維の髪を撫でる。それが心地よくて、姜維は鍾会の肩に頭を預けた。

「姜維殿の髪は触っていて気持ちいい。まるで絹糸のようだ」
「そんなたいそれたことを……」

目を閉じた姜維の髪の毛を軽く持ち上げ、出てきたうなじに口付ける。熱を持った吐息がくすぐったいのか、姜維は身を捩らせた。そのまま耳に持っていった口で軽く耳を舐める。

「あっ……ん……」

甘い喘ぎを漏らす姜維を見て堪らなくなったのか、鍾会はそのままソファに押し倒す。
鍾会殿、するならあちらで、とベッドを指した姜維にそうだな、と答えると鍾会は姜維を抱き抱えてベッドへ向かった。
運ばれる姜維が棚上に置いた羽扇を目にするのを知らずに。

鍾会に抱かれる最中、痛みと快楽に蝕まれた脳の片隅に引っ掛かった物がある。
それは一体何だ?何が引っ掛かっている?わからない。だが何か、忘れているような気がする。否、忘れている。
思い出してはならぬと何かが警告する。それでも私は、私はそれを思い出したい。

注がれる熱とともに歯車が噛み合ったような気がした。

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