濡れた瞳を天にやると、星空が広がっていた。星を映した涙はつう、と頬をつたう。
エイリアの一件は、吉良星二郎及び研崎竜一の逮捕で幕を閉じた。
自身が今まで信じてきた物も、殺してきたものも、全て打ち砕かれた。
あまりにも、脆い。
信念とはこうも簡単に打ち砕かれるものなのか。
落ちた水滴は星の光を反射する。
そのままグランは力なく横たわり、瞼を落とした。



基山ヒロトという名は、吉良家に養子として迎えられた日、星二郎からもらったものだ。元の名前はもう…忘れてしまった。



基山ヒロト。
幼くして捨て子となり、A孤児院に預けられた。吉良星二郎に養子として迎えられて実の息子のような待遇を受ける。
基山本人も星二郎を実の親の様に慕って育った。顔すらわからない親に向けるはずだった愛情を、全て星二郎へと注いだ。
そして時は立ち、少年は真実に気付く。
今まで自身に対して向けられていた名は、全て故人に向けられていたものだったと。
基山ヒロトは故人の代わり。
父の愛した、ヒロトの代わり。
自身など存在しなかったのだと。


それでも、愛してほしかった。
吉良ヒロトの代わりでいい。愛情がほしかった。
彼は星二郎の言うことに忠実に従い、一切反論しなかった。少しでも星二郎のヒロトに近付けるように、愛してもらえるように。
彼は父のために自身を殺した。
全てを犠牲にした。



信念とはあまりにも脆い。
星二郎の逮捕によって、全てを犠牲にしても手に入れたかった、グランの全ては消えてしまった。
瞼を上げれば星屑が瞳を濡らす。


グランの全てが星二郎であったように、星二郎の全てはヒロトであった。
姿を重ねることがどれだけ彼を苦しめるか、わかっていたはずなのに。
星二郎は失った息子の遺伝子を彼に埋め込んだ。彼から本質を奪い、ヒロトを与えた。
ヒロトは二度と還ることはないというのに。



自身に埋め込まれた吉良ヒロトの遺伝子。故人からの脱却。
吉良ヒロトではなく、基山ヒロトへ。
義父からの愛情を求めた余りに生まれた呪縛。
義父が離れてしまった今、その呪縛も消え失せただろう。



吉良の遺伝子に基山を絡ませていく。脱皮のように、羽化のように少しずつ、吉良から、基山へ。
自身が生まれた意味を問い直す作業を始めよう。
濡れた頬に星が光る。


The Birth


ただ一度だけ、基山ヒロトとして名前を呼んでほしかった。
1つだけの我が儘を星屑と共に飲み込んだ。





//ザ・バースの螺旋状のやつが遺伝子に見えたので

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