「実のところ、俺の正体は狐ではないかと思うのだよ」 手に持った扇子をぱちり、ぱちりと弄びながら三成は言う。 夜もふけり、辺りは暗き丑の刻。 三成と兼続は酒の席を共にしていた。 部屋を照らすは2本の蝋燭。 内2つは間もなく蝋が溶けてしまうであろうほど短くなっている。 兼続、お前だから言うのだ。よいか、他の者には決して話してはならぬ。そう言った三成の眼は真剣そのもの。 到底、酒で酔った末の妄言には見えなかった。 「ほう?三成が狐であると?はたまたそれは人に害為す怪か、それとも九尾か」 ニヤリと笑ってみせると、三成は伏し目がちに部屋の角に置いた蝋燭へ視線を送る。 扇子を弄ぶ手は止まらない。 「わからぬ、だが俺はきっと狐なのだ。人ではない異形の者なのだ」 外からは虎鶫の声。さながら鵺のようであって。 静かな空間に鵺の声だけが響く。 「案ずるな。三成が狐であろうと異形の者であろうと、私は友を見捨てはせぬ」 三成は少し安堵したようで、若干顔のこわばりが消えたように見える。 扇子を弄ぶ手も止まり、自身の隣へとそれを置いた。 「さあ三成。すっかり話こんでしまったが、もう夜も遅い。今日はここまでにして、続きはまた明日にしよう」 手にしていた盃を飲み干し立ち上がる。三成も慌てるように盃の残りを飲み干し、重ねて隅に寄せた。 立ち上がり障子を開けると、外の寒さが体に突き刺さる。 目前に広がる闇は底知れず。蝋燭の火も消えかかっていた。 違和感 「ではまた明日、お邪魔しよう」 そう言って障子を閉め、身を翻す。 鵺が鳴き続けている。 夜は深く、丑の刻。 障子の向こうで蝋燭の火がぐらりと揺らいで消える。 その刹那、兼続は三成がいるはずの場所に狐の影が見えた気がした。 |