鬱陶しい程に青空が広がっている。人の騒めき、自動車のクラクションが止まない。
中でも特に日常からかけ離れている音がある。
サイレン。救急車の、パトカーのサイレンが止むことを知らずに鳴り続けている。

苛々する程の快晴の空の下、恋人、天上院吹雪は自動車に引かれて、死んだ。


サイレン


死の瞬間を見た人によると、信号を渡ろうとした瞬間、曲がってきた車に引かれたらしい。
あまりにもありきたりすぎる彼の死。その死因にまず絶望した。

可哀想に、即死でした。残されたあなたもさぞお辛いことでしょう。
そう語る警察官は憐れみを含んだ視線を投げ掛ける。
見ないほうがいいと言われた彼の死体。グチャグチャになった身体。
デュエルアカデミア一の美貌と唄われた天上院吹雪は、もうそこにはなかった。
俺の愛した吹雪は、もうそこにはいない。

「この遺体、引き取らせてください」
「いや、でも、あんな状態ですし…」
警察官は気まずそうに視線を滑らせる。
「いいんです。あれが彼であることには間違いないですから…」
「はあ…」

警察官を説き伏せ、彼の死体を家に運んだ。
吹雪、吹雪、愛しい吹雪。もうすぐ家に帰れるよ…。

いつもなら聞こえる吹雪のおかえりが聞こえない。ただいまと誰もいない空間に向かって呟く。
無造作に散らばった服。今日は片付ける人がいない。
散乱している服を隅に寄せ、吹雪を床に並べていく。
肉片、臓器、眼球、爪。全てが吹雪。
愛しい指を見つけて、思わず頬を寄せた。細く、長い美しい彼の指。俺はこの指が大好きだった。
口に含むと指にこびりついた鉄の味が口内を侵食していく。
吹雪の体液が、俺を染めていく。

部屋が吹雪で埋め尽くされた。吹雪がいつもつけていた香水が僅かに薫る。
服を脱ぎ、吹雪の上に倒れこんだ。冷たい、けれど吹雪を直に感じる。
自身に吹雪の腸を巻き付けていく。口には吹雪の人差し指を銜え、蕾には吹雪の指を何本か差し込んだ。
左の小指は完全に形を無くしている。惜しいことをした。
ペニスが無いから、指。
愛しいあなたがいないから、肉片。
吹雪がいつもしてくれた愛撫を思い出しながら指を這わす。
俺の喘ぎ声と臓器が触れる音だけが部屋に響く。
腸で縛った自身を臓器(多分、心臓)に埋める。破れた所から血液が噴き出した。
そのまま前後に動かす。俺が赤に染まっていく。
「吹雪、やっと、1つに・・・」
吸われているような感覚。後ろの指も動かす。
指は射精しない。だから代わりに血液を勢い良く中に注いだ。
俺の全てが、吹雪で満ちていく。あっという間に絶頂を迎える。

やっぱり生きた吹雪とヤる方が何倍もイイ。
それでももうあなたはそこにはいないから。
ここには俺しかいないから。
俺の白と吹雪の赤が床に散乱している。マーブル状になっている所もあった。
なんとかして俺の精液だけ拭かなければ。吹雪の血液は勿体ない。
雑巾で床に散らばった白だけを拭いていく。
マーブル状は仕方なく拭いた。精液は臭うから。さすがに俺も耐えられない。
それでもきっと、あなたのならば耐えられた。

遺体を持ち帰ってから数週間経った。
臓器や肉片は腐廃臭を放ち、血液は黒く変色している。服は部屋の隅に追いやったまま。
久々に丸藤に電話をかけた。
今すぐ来てくれ。ああ、という返事をもらえたから安心して受話器を置いた。
これで安心、俺の未来は救われる。

丸藤の乗ったバイクの音が外から聞こえてきた。
俺は部屋の鍵を開け、吹雪の並べられた部屋に戻る。
紙に書き置き。土葬がいいな。


丸藤がドアをあける頃を見計らって、俺は包丁を首に突き刺して死んだ。


救急車の、パトカーのサイレンが止むことを知らずに鳴り続けている。



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