「死ね、ゴキブリ」

「あんたこそ死んじゃえ、蛆虫」

私と丸藤は何が可笑しいのか分からないのに腹を抱えて笑う。私はゴキブリで丸藤は蛆虫。滑稽な私達にはお似合いの虫だった。滑稽だから私と丸藤はお互いを死に至らせようと、殺そうとする。私は丸藤で丸藤は私。お互いはお互い。自分自身が大嫌いだから死にたいし殺したいと思う。だから今日もゴキブリと蛆虫は殺し合う。似てるようで似ていない。私達の存在なんてそんなものなのだろう。だから私は丸藤の右手首にカッターを突き刺して丸藤は私の首を片方の腕で締める。こうやって私を殺そうとしているときの丸藤の顔はまるで性行為中の顔みたいで私は自分が行っている行為と丸藤の顔に欲情する。ただし両者目は死んでいるし疑似性行為にすらなっていない。私達は似た者同士の変態なのかもしれない。それでも丸藤と同じならひとりじゃないから良かった。ひとりは寂しい。丸藤と一緒は寂しくない。人生に絶望した死にたがりは今日もお互いを滑稽に殺し合うのです。


「ぁ、や…やだ、ひっ…」

漆黒に身を包んだ丸藤が私を犯しに来たのは十六夜月の夜で。最初は何が何だか分からなかったし分かりたくもなかった。ただ、私と死にたいと願い殺し合っていた丸藤は何処かへ消えたのだと理解した。今の丸藤の瞳には昔にはなかった生気と餌を求めて彷徨う獣のようなぎらぎらとした闘志が宿っていた。人間は変わらずにはいられないと聞いた(でも丸藤は蛆虫だ)が丸藤がいい例だ。もう私と丸藤は同じじゃないのかと思うと胸がぎゅううと締め付けられる。悔しいのか悲しいのかも分からず一晩中漆黒を纏った丸藤に犯され続けた。


「ひぅ…!や、やだ、ぁああ!」

「…ふん、相変わらずお前は」

滑稽だ、と丸藤は呟き私の腰をしっかりと固定して奥の方をえぐるように突く。私の秘部の肉は敏感な丸藤自身の熱を捕らえて離さないかのように絡み付いた。もう何度目かは分からない性行為。丸藤に犯されたあの日から私の中の恥やプライドは崩れ去り丸藤以外の不特定多数の男とも身体を重ねるようになった。最低な女に成り下がってしまったなと自分でも思う。だけどそんな最低な女を何度も抱く丸藤が理解出来ないのだ。丸藤くらいのデュエリストなら上質な女を買うことくらい容易いのではなかろうか。なんで私なんかを抱くのだろう。なんでこんなにも汚れてしまった私なんかを。
でもそんな汚れた私にも生きる希望が生まれたのだ。こうやって抱かれている時相手は確実に私を必要としてくれる。それが泡沫だろうと、性行為中のみでも必要としてくれる誰かが居るというのは私にとってのプラスで生きる糧となった。だから私は今日も明日も男に抱かれよう、私は確実に必要とされるから。

「まる、ふ、じ…ぁ、ああっ!」

「……くっ…!」

私も丸藤もそろそろ達しそうだった。切羽詰まった嬌声を部屋中に響かせる私に応えるかのように丸藤は腰をギリギリまで引いて叩き付けるかのように奥まで貫き、精を吐き出した。びゅるびゅると私の奥で吐き出された精液は愛液と混ざり合ってずるりと音を立てて抜かれた丸藤自身と共に溢れ出た。つんとした精液の匂いが鼻を突く。この匂いだけは苦手だった。

「丸、藤…」

「ん…」

ちゅ、と軽い口付けを交わして丸藤はベッドに倒れ込むかのように横たわった。情事後のとても気怠い身体を引きずって丸藤に寄り添う。まるで恋人だ。人が変わったかのように思えても丸藤は丸藤だ。多少甘えてもそれなりには応えてくれる。このままだと私は丸藤の腕の中で朝を迎えるだろう。私は丸藤の温もりが好きだから安心できた。

「…なんというか、人は変わらずにはいられないんだな」

「…え?」

「…俺も、名前も…変わってしまっただろう」

「それは、そうだけど」

「それでも俺は今のお前の生き方が好ましく思える。…いや、生きようと必死なお前が好きなのかもしれないな」

「…?」

私には丸藤の言っていることが理解できなかった。それでも安らかな表情をしているから良いことを言っているのだろう。ああ、らしくない。昔はあんなに死にたいと言いながら毎日毎日殺し合っていた私と丸藤が今では性行為に没頭して恋人のように身体を寄せ合う仲だ。可笑しな話だと思う。でも、こういうのも悪くない。少なくとも昔よりは人間らしいのだろう。ゴキブリと蛆虫は無事人間へ昇進した事になる。…やっぱり可笑しな話だ。

「それでも、私と丸藤は」

「ん…?」

「滑稽だねえ」

「…ああ」

私と丸藤は顔を見合わせて声を上げて笑った。やっぱり何も変わってないのかもしれないし変わったのかもしれない。よく分からない関係でしかない私達は強く抱き合いながら眠りについた。



100416/丸藤亮 再放送89話記念






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