「私、鳥になりたい」

「…鳥?焼き鳥の間違いじゃねえの」

カシャン、とフェンスが音を立てた。古びて薄汚いフェンスは少し力を入れて蹴る殴るをしたら直ぐに崩れてしまいそうで、まるで今の名前みたいじゃないかとちょっとした発見。それにしても、鳥か。鳥なのかよ。なんでそんな

「やだなあ、焼き鳥なんて本当に嫌だよ」

「いいんじゃねえの?翼が無くて地に墜ちるよりは、よ」

「なんで墜ちる前提なのさ」

ふふ、と楽しそうに名前は笑う。なんだよお前。まだそんな表情出来るんじゃねえか。少し前のお前なんてこの世の終わりみたいな表情で痛々しく笑ってたのによ。馬鹿じゃねーの。お前なんて地に足着けてあいつらと、俺の前でへらへら笑ってればいいのによ。やめろよ、鳥になりたいなんて。お前みたいな奴が鳥になれるわけない。せいぜい翼をもがれた鳥がぴったりだよ。

「だってさあ、鳥だよ?」

「はぁ?」

「鳥っていうとさ、青い鳥とか縁起のいいものとかあるじゃない?」

「鴉はどうなんだよ。ゴミ漁って生きてんだぞあいつら。どう考えても汚ねーだろ」

「でも頭がいいじゃん。少なくとも明王よりは」

「お前マジでぶっ叩くぞ」

「ごめんごめん…。でも私は鳥が好きだなぁ」

名前はフェンスにもたれ掛かる。軋むフェンスなど知らないかのように体を揺らしている。つーかそれは危ないんじゃないか、止めないけど。(つーか俺にこいつは止められない)

「よっし!飛ぶぞ!」

「マジかよ」

「うん、…一緒に居てくれてありがとうね」

「別に好きで一緒に居たわけじゃねえよ」

「あはは、私の我が儘だよね」

フェンスにもたれ掛かるのを止めて靴を脱ぎ始めた。何の変哲もないローファーをに二足、横にきちんと揃えて置いた。普通そんなの適当に置いてもいいと思うんだけどな。最後に名前は満面の笑みを浮かべてこっちを向いた。

「大好きだよ」

「ああ」

一瞬驚いたかの様な表情を浮かべたが直ぐに安らかな表情に戻り両手を思い切り広げて、後ろから宙へ。一瞬であいつは俺の前から消えた。


「はは、後ろ向きで飛ぶ鳥なんかいねーだろ…ばーか」

下を覗き込んだら、哀れにも地に落ちて死んだ鳥が一羽、ぐちゃぐちゃになって存在していた


100416/不動明王


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