私はとても悩んでいた。
一つは兄である天上院吹雪の奇行に。二つ目は私の目の前で満面の笑みを浮かべながらパンを頬張っている彼女に対してだ。
名前は兄さんにとても好かれていてすれ違ったりする度に酷くセクハラ紛いな事をされるらしい(抱きつかれたと言っていた、立派な犯罪だ)最近では夜に部屋へ押し掛けてくる、との事で。私はそれを聞いた時恥ずかしくなった。嗚呼、何故あれが私の兄なのだろうか。亮を見習って欲しい。兄さんが名前に迷惑を掛けている…これで彼女が救われるとは微塵にも思ってなどはいないがドローパンを奢ってあげる事にした。

女の私が言うのは異常なのかも知れないが名前はとても可愛い。目は大きくくりくりとして、指先は綺麗な桜色。肌なんか透き通るように白くて最早外見だけではなく一挙一動が愛おしい。食べてしまいたいと思うくらいだ。兄さんが名前を好いている理由なんて嫌でもわかる、だって私と兄さんは兄妹だから。最初はこの感情は嘘だと思いたかった。だって、女の私が名前を好きになるだなんて。彼女を想いすぎて眠れない日だってあった。でもそんな日の翌日には名前が私を心配そうに気遣ってくれて、嬉しくて眠れない夜が増えるくらいだった。今の私は色々と吹っ切れてしまい彼女を愛しく想う事を恥じることなんてない、と思うようになった。願わくば名前が私のモノになりますように、膨大な想いは密かに胸の内に隠すことにした。

と格好付けてみても最早どうしようも無いらしい。私の彼女への想いはあまりにも大きくなりすぎていて軽くつついただけで破裂しそうなのだ(正直、今も危うい)私の心が今も揺れ動いてるというのに名前は脳天気にパンを黙々と食べていた、ああ、駄目だ可愛すぎる。


「…明日香ちゃん?」

「え、…ど、どうしたの名前」

「…食べてるところ、見られてるとなんか恥ずかしいよ…」

「ああ…ご、ごめんなさい…」


自分でも気付かない内に名前を直視してしまっていたようだ。なんというか私も兄さんとさほど変わらないのかもしれない、あまり認めたくないが。
と、何故かわからないがいやな予感がした。まさか、まさかすぎる。そんな展開はまっぴら御免なのだが。…いやな予感は当たってしまった。私達の目の前に現れたのは私の兄、天上院吹雪で名前は視線で私に助けてと訴えてきている。周りには私達しかいなくてどうしようもない。ああ、最悪だ。

「兄さん?何の用なの」

「いやぁ、ちょっとね…我が愛しの妹と名前ちゃんに会いに」

「帰って頂戴」

「明日香は相変わらず辛辣だねぇ…ああ、名前ちゃん、ショコラパン食べるかい?」

「え、えーっと…」

「君の為に引き当ててきたんだよ!さぁ、ボクの愛が籠もったこれを受け取って!」


いい迷惑だと思った。
名前はじりじりとこちらに寄ってくる。それに伴い兄さんも笑みを浮かべながら名前を追い詰めていて、私が助けてあげなくてはと思った。そんな一瞬の隙に兄さんの右手は名前の肩に触れていて私はその手を思い切り叩いていた。

「…明日、香?どうしたんだい急に」

「…兄さん」

私は名前の肩をこちらに無理やり引き寄せて頭を空いていた方の手で固定した。名前が小さな悲鳴を上げたのは最早気にしない、ざまあみろ兄さん、彼女は私の物だ。ゆっくり顔を近付けて口付けを落とす。心地良い温度の名前の唇はとても甘い果実のようで私を虜にさせた。兄さんに見せつけるかのように私は舌を彼女の口内にねじ込む。ねっとりとした私の舌を名前の舌に絡ませると仄かにメロンの風味が広がった。丁度良い、私もこれは好きだから。存分に彼女の口内を楽しんだ私は唇を離した。少々名残惜しく感じるのは気のせいではないだろう


「明日香……?!」

「あ、あ…すか…ちゃん…」

兄さんはポカンとした表情を浮かべ名前は顔を真っ赤に染めながら涙目で私を見ていた。ああ、可愛い。どうせ私は取り返しのつかないことをしたんだ…どうせなら徹底的にやってやる。

「兄さん」

「…なんだい、明日香」

「御覧の通り名前は私のよ。兄さんにはあげないわ」

「はは…真剣な顔で何を言い出すかと思えば…。いいよ、明日香がそのつもりならボクは妹にだって容赦はしないさ」

「は…?」

「ボクも今回ばかりは本気だよ、本気で名前ちゃんを愛しているからね…。今は明日香が有利でも直ぐに追い付いてあげるさ」

「ふふ…いい度胸ね、兄さん。でも名前は絶対に渡さないわ」

「それでこそボクの妹だ!」

「(ところで…私の意見は無視なのかな…)」


100303/天上院明日香




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