仁王双子兄で弟と入れ替わりゲーム
※仁王雅之は仁王の双子兄です。
今日は雅治がちょっと調子が悪いみたいだった。熱は微熱程度だったみたいだけど、体がだるいらしい。俺は今日はなぜか元気なんだよね、俺と雅治、今日はいつもと反対じゃな、と苦しさで顔を歪ませながら笑った雅治の色素のない髪を撫でた。
わざわざ脱色してくれた愛おしい雅治の髪。じんわりと額に汗をかき始めた雅治の額をタオルで拭ってやる。
「今日はお休みしなさい」
しぶる雅治をベッドに押し倒して、俺は立ち上がる。そして雅治の制服を着込んだ。
へへ、初登校ってやつだな。雅治の制服は少しだけ大きかったけど、まあ傍目から見たらわからないよな。
雅治の口調を真似しながら雅治の尻尾みたいな髪を結う。…よし、上手く結えた。
母さんに見せたら心配されちゃったけど…頑張ってきなさいって応援された。今日の部活は出ないと母さんから連絡してもらった。母さんからなら噂の怖い真田くんも怒らないよね…よし
「ほんじゃあ、行ってくるかのう」
「行ってらっしゃい、雅之」
クスクス笑った母さんに見届けられて、立海大までの道のりを歩く。初めてだな、登校なんて。体が弱くて満足に通えなかったから。
「仁王先輩!はざーっす!」
「ん?」
後ろからドンっとタックルされ振り返ると、黒髪にパーマ…天然パーマか。先輩って言ったから…後輩の赤也くんかな。特徴は一致してるし。
「プリッ…赤也、今朝会うんは三回目じゃ」
「はぁっ?三回?えっ」
「うっそー」
よしよし、気付かれてないな。雅治の方が健康的な肌してるし、筋肉あるし、しっかり見ればわかりやすいと思うんだけど。
雅治の悪戯を真似て笑う。赤也くんかわいいなあ、学校か。
教室に入ると目立った赤い髪がひょこんと跳ねた。俺知ってる、あれが丸井くんだよね。家で見たことあるもん…相手は俺のこと知らないだろうけど。
「よぉ、仁王おはよ」
「ブンちゃんおはようさん」
「ん?」
ドキッとした。丸井くんは俺を見上げて目を細める。やっぱり同級生は騙せないのかな…!
「なんか今日色白くね?」
あー、突っ込まれちゃった。まあ俺のほうが色素薄いのは仕方ないけど…ちょっと、ずきっと痛いな。まあ確信はしてないみたいだし。あ、ちょっと波が来たかも。薬持ってきてないって…。
「そんなことなか」
「顔色悪いぜ…保健室行ってこいよ」
保健室か…体調も悪くなってきたし…いやでもせっかく来たんだし保健室登校するのも…う、え…
「は、ちょっ仁王!?」
あーだめだ、フラフラする。はあ、と荒くなりだした息。丸井くんが焦って俺の肩を支えた。
やっぱり学校来るのって、俺には無理なのかな…。
丸井くんが俺を引きずるようにして保健室へと連れてってくれた。うう、丸井くんやさし…これが雅治のクラスメートで、部活仲間か。
羨ましくて、少しだけ憎いな。丸井くんだけじゃなくて、雅治から聞く他の仲間たちも、きっと丸井くんみたいにいい人たちなんだ。そうしたら俺は雅治を縛れない。
霞む意識の中で、雅治を思い出す。雅治を縛り付けてるだけなんかな、俺、とか。でも、俺だけの雅治でいてほしいな、とか。
意識がゆっくりと浮上して、誰かの会話が耳に入ってきた。
「ですから、この方は仁王くんではありませんよ」
「む、仁王じゃないのか?」
「こんな派手な髪、仁王先輩くらいじゃないっすか?」
「俺も仁王じゃないと思うけどな、柳は?」
「精市と同じ意見だ。体の線も細く、筋肉がない。見た目は仁王にそっくりだがな」
「言われてみれば肌も白いし…髪も痛んでないっぽいしな」
「えー、仁王だろぃ?」
はは、やっぱりわかっちゃう人にはわかっちゃうんだ。俺も早く体調整えて、雅治みたいに…、
「あ、起きた」
赤也くんの声が響いて、きれいな藍色の髪の幸村…くんだったかな。柔和な笑みを浮かべて俺を覗き込んだ。
「おはよう、体調はどうだい?」
「すまんのう…大丈夫なり」
「そう、よかった。で?君は誰かな?」
幸村くんは笑みを浮かべたまま問う。ひー、怖い人だな。こんなにきれいな人なのに、部長で…なんていうの、威圧感?
全て話すと幸村くんに怒られた。体を大事にしろとか、無茶するんじゃないとか、雅治が心配するとか。
いい奴らすぎてムカつく。
帰ってきて雅治にも怒られた。一日静養していた雅治は体のだるさも微熱もなくなったみたいで、カンカンだった。
「家におってっちゅうたんに」
「学校行ってみたかったんだよ」
後ろから抱きついて俺の肩に顎を乗せた雅治はぶーたれてる。拗ねんなっちゅうとるんに。
「心配せんでも俺は雅之から離れるつもりなんかかけらもなか」
「…うん」
「雅之も俺から離れんでいいし、雅之のことはなんでもしちゃる」
せやから、家から出らんでええんじゃ。
最後に歪んだ俺たちは笑いあう。学校もよかったけど、やっぱり雅治がいればそれでいいや。
(歪みきった俺と君)
10万打企画で利己主義者の憂煕様に書いて頂いたものです。
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