過去は今を反映する
家庭科室でカップケーキを作り終えて教室に向かう途中、黄色い悲鳴が聞こえてきた。
立海のテニス部は氷帝には劣るだろうが人気があるからファンクラブと言うものが存在しているらしい。その話を聞いた時はビックリしたなー。同い年にファンクラブとかアイドルかって突っ込んだけど、真顔で肯定された記憶が懐かしい。
相変わらずだなー、なんて思っていると、前の席の人がやってきた。
何の運命か、それとも神様の暇潰しかは知らないが前の席の人は柳蓮二、テニス部の中で三強の一人で『達人』と呼ばれる彼なのだ。その上成績優秀、生徒会所属と言う何とも嫌味かと思うくらいできた人だ。
勿論柳君にもファンはいるが幸村君や仁王君のファンと比べると柳君のファンなんて可愛いモンだったけど。
それに私には生徒会副会長の肩書きがあるから、近づいてもイジメがおきたりはしない。ただし柳君のみだったが。
まあ、それほど話したこともないけどね。でも、挨拶は大切だからそれだけは毎日やっているよ。
「おはよう、柳君。今日は君に負けちゃったな。」
「我妻か、おはよう。珍しいな、俺より遅いなんて。」
「いや、ちょっと用事が、ね?」
なんて誤魔化しながら席についた。
「柳君、一つ質問してもいいかな?」
「何だ?」
「今日は何故一段とクラスがざわめいているのかな?」
いつもならチャイムがなったら全員とまでは言わないが静かになるのに、今日は一段と騒がしいのだ。
「ふむ、我妻はこういう情報に疎い、か。」
「そんなデータいらないでしょ?」
わざわざと我妻用ノートまで用意して書いている柳君に突っ込んだ。まあ、別冊を用意してまで書く理由はわかってるけどね。
「私のデータなんて取ってどうするの?」
「お前は危険分子だからな。」
「だったら、生徒会なんて辞めさせたらいいのに。そうすれば関係が減って私を危険視しなくていいでしょ?」
そう、柳君は私を危険視しているのだ。何を見て私を危険と判断したんだろう、なんてね。理由ぐらい言わなくてもわかっている。
「俺がお前との接点を減らしても仕方がない。問題は丸井だからな。」
「…丸井君、部活中何か問題でも起こしたの?」
データマンの彼はブン太の様子を見てそう判断したらしい。丸井君は何をしたのかな?私といるところは柳君に見られた記憶なんてないけど。
「いや、部活中はなにもしていないさ。それに、お前は俺や仁王に『近い』からな。」
「フフッ、さっすが柳君。」
今度の言葉にはつい笑ってしまった。もちろん驚いた、という意味を込めて。しかしブン太が何もやってなくてよかった。しかし素晴らしい観察眼をお持ちだ。いっそ探偵とか似合いそうだよね。
「それほどでもないさ。そういえば何故騒がしいか、だったな。…今日は転校生が来ているからだろう。」
「転校生?こんな時期に?」
まだ新学期になって一週間しか経っていない。しかもこの学校は立海だ。試験をパスするのは並大抵のことじゃない。まずこの学校に編入試験などあるのかも私は知らないし聞いたこともない。こんな時期に来るのはよっぽどの優等生かそれとも私のような異端者かまたはあの『女』かのどれかだろう。
「ああ、親の仕事が忙しくて手続きが遅れたらしい。」
「へぇ、珍しいね。」
怪しいなあ?
「男の子?それとも女の子?」
「女らしいぞ。」
何でかな?
「この学校のテストを満点合格したらしい。」
「凄いね。」
普通ならありえないことなのに…どうしてかな?
「柳君はその人に会ったの?」
「ああ。俺が真田と職員室に行ったら居合わせたんだ。」
「だから、」
逆ハー補正にかかったんだ。柳蓮二と言う男は私が知っている限り冷静に物事を判断し私のような異端分子はチームの影響にならないように自分の管理下に置く、まさしく中立的でどちらかに偏るということをしないできた人間なのだ。だが彼がここまで情報を集めているのに疑問を感じない。こんなに怪しいのに、それどころか好意的なのが(読心術を使わなくても)わかるのだ。物事が表情に出にくいあの、柳蓮二の好意が。
「だから?」
「いや、なんでもないよ。」
まさかここまでとは厄介だなー、なんて思っていると、またノートに書き込む音が聞こえてきた。
「我妻がこういうものに興味を示すとは思わなかったぞ。新しいデータだ。」
「別に興味なんか、」
「口元が上がっているぞ。」
ないよ、と言い終わる前に指摘されてしまった。鋭いなぁ、柳君は。
「フフッ、興味はあるかもね?」
かと言って何かする気はおきないけど。そしてその興味が柳君と同じとは限らないけどね?
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