なれそめは?

小さい頃はまだ一人っ子だったから母さんも父さんも可愛がった。あの頃はまだ何をしても許される時代だった。

小学校一年生の時初めて俺に弟ができた。それから両親の俺に対する態度が変わった。面白かった母さんが急に厳しくなって優しかった父さんも俺に構ってくれることも少なくなり両親揃って弟を可愛がった。

勿論俺も弟ができたから『兄』としての役目をしなくてはならなくなった。弟が一人だったら遊んであげる、弟がぐずったらあやしてあげる、今からすればすごく簡単なことなのに当時の俺には苦痛でしかなかった。

初めは可愛がった俺の唯一の弟が両親を奪って、楽しかった生活を奪って、俺の大切なテニスの時間を奪ったことが一番嫌いになった原因だった。

『もうお兄ちゃんなんだから』という言葉のせいで俺は小さい頃から行動を規制された。『兄として』模範的な態度を求められた。僅か小学校一年生にはそれは拷問のようなものだったが模範的であれば母も父も褒めてくれた。俺はただ褒めて欲しいために規則的且つ模範的な行動をし自分を制限した。


そんなある日、俺は入学式の日に出会ったクラスメイトに『イジメ』られた。理由は赤い髪、母と同じ色にしてもらった母とおそろいの大好きな色を不良と言ったことだった。実際はただからかった、または妬んだだけだろうが当時の俺にはその行為は『イジメ』以外の何物でもなかった。模範的な態度を貫いていた俺に不良という言葉は僅か六歳の俺に重症を負わせるほど酷い言葉だったのだ。俺は毎日数名の男子に『イジメ』られその他のクラスメイトに陰口を叩かれ笑われた。何も悪いことをしていないのに髪の色で笑われたのは母さんを侮辱されたのと同じだった。だが何を言ってもからかうこともやめないクラスの奴に嫌気がさした。

そんな時昔一度だけ会った渚に再会した。

昔俺は渚のことはどちらかというと嫌いだった。虚ろな顔、単調な喋り方、全てを見透かしたとでもいうような瞳。明るく活発な俺と比べると正反対の性格だった。何をやっても話が合わないため昔は渚のことを避けていた。

「ねぇ、君って丸井ブン太?」

「はぁ?何いってんだよぃ。」

今まで避けられていることを理解していてどうして話しかけるんだろう?

「おかしいな、私が初めて会った時の丸井ブン太は明るく活発で両親が大好き。その割にプライドが高くて甘いものに目がなくてテニスが大好きな素直で子供だったのに何時の間にそんな違う人間になったの?」

「おまえなんかにはわかんないんだよ!おれのきもちなんて…。」

かあさんにもとおさんにもひつようとされないおれのきもちがひとりのおまえになんかわかってたまるもんか!

「君の気持ちなんか私にわかるわけがないよ。でも今の君は丸井家の長男という地位に縛られている。そんな何でもそつなくこなす利口な子供なんていないよ。子供はまだ親の庇護下で生きていればいいんだからわざわざと頼れる兄なんて演じる必要性はないよ。」

「でも…!」

「ねぇ、君は親に認められることが君の全てなの?親に愛されないと生きる意味がなくなるの?君は『丸井ブン太』という一人の人間なんだから決定権は君にある。
丸井ブン太ってどんな人?このまま親の庇護下から抜け出さないの?」

おれは?おれってどんなやつだったっけ?

「おれは、あまいものとテニスがだいすきで、やさしかったかあさんがだいすきで、このあかいかみもすきで、おとうともすきなのにきらいで、ほんとはいいこなんかじゃなくて、でもやっぱり…。」

「君の決断に関してまで口は挟まないけど君は君のものなんだよ、丸井ブン太。父親のものでも母親のものでも、ましてや弟のものでもない、君は君のものなんだ。君はある程度自由なんだよ。」

我妻は俺に全て話し終えたら何時の間にか去っていた。これが本当の俺、丸井ブン太の確立でもあるし我妻に恋した日でもある。

この日を境に俺は壊れたんだ。



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