「お待たせー」 「おかえり。遅かったね」 「レジが結構混んでたんだよ。あと、これ。新商品見つけたの」 「冷麺キャラメル……」 「学食、どれだけ冷麺押しなんだよ……」 「あ、そうだ、海野さん」 「どんな味なのかなあ……ん、何?」 「たまたまチケットが手に入ったんだけど、来週遊園地に行かない?」 「たまたま?」 「そう、たまたま」 「そうなんだ…………えっと…………」 「わ、わー、奇遇だなあ!」 佐伯くんが急に声を上げた。笑顔だけど、ぎこちない。海野さんが佐伯くんの顔を見上げて、ぱちぱち、と瞬きを繰り返す。 「僕もこのあいだバイト先で、お客さんからチケットをもらったんだ。その、遊園地の!」 「……佐伯くんも行くの?」 「いいかな、赤城くん?」 「……海野さんがいいなら、いいよ。どうする?」 「うーん……あ、そうだ。氷上くんも行かない?」 「僕かい?」 例によってゴムみたいに噛み切れないバーガーに苦戦していた氷上くんは、急に話を振られて驚いて顔をあげた。 「ちょっと待ってくれ……予定は……うん、空いてる。構わないよ」 「ホント? 赤城くん、佐伯くん、いい?」 「…………まあ、チケットも余ってる、し」 ──赤城と二人きりはよっぽどマシだ。そんなことを小声でぼそぼそ言っている佐伯くんに僕も小声で話しかける。 「……つまり、君は買う訳だね」 「ああ、当然だろ! 買うよ。言っとくけど、負けないからな」 やけくその体で言い切る佐伯くんに笑顔を向ける。 「負けられないだろうね。チケットは」 「……は?」 「遊園地のチケット。君、どうせ、自分で買うんだろ?」 「……チケットの話かよ」 「あれぇ、何の話だと思ったの?」 「………………」 佐伯くんは絶句している。まずは一本、かな。でも先のことは分からない。なぜなら、勝敗を握っているのは他でもない彼女であって、僕らではないのだから。 一体どちらの手を取るのか。決めるのは、彼女だ。僕の、彼の、あるいは、全然知らない誰かかもしれない。誰の手ももしかしたら、取らないかもしれない。けれど、未来への可能性は彼女の手の中にあって、僕らは、彼女の手を取りたくて、こうして見えないところで戦いを始めた。ようやく、という話。 売店の期待の新商品、冷麺キャラメルを口に入れて、いかにも「辛〜い!」という表情をしている彼女を、苦虫を噛み潰したような顔で見つめていた佐伯くんが、苦り切った顔で口を開く。 「言っとくけど、な」 「何?」 「アイツは手ごわいぞ」 「親友の忠告か、肝に銘じとくよ」 「……鈍いし、鈍臭いし、天然ボンヤリだし、のほほんカピバラだし、とにかく、手ごわいからな?」 「わあ、実感こもってるね。忠告ありがとう」 でも、彼女の手ごわさなら僕も知っている。 偶然に次ぐ偶然、近づきそうで、でも、手を握ることも望めなかった。そもそも、名前すら知らなかったんだ。 大抵の場合、一言多い僕に彼女が憤慨するパターンだったし。 「……でも、好きなんだろ?」 「……渡さないからな」 「こっちの台詞だなあ」 「ねえ、さっきから何の話してるの?」 冷麺キャラメルを、売店で買ったペットボトルのお茶で流し込んで、ようやく人心地ついたらしい彼女は、きょとんとした顔で、僕と佐伯くんを見上げて首を傾ける僕と佐伯くんは、横目に見つめ合う、というか、目配せをする。そうして、佐伯くんは首筋をさすり、ため息をつき、僕は肩をすくめ、ため息をつく。 「おまえはまだ知らなくていい」 「うん、君にはまだ早い話、かな」 ──そう、まだ、という話。 奇妙に意見が一致するぼくらを交互に見つめ、彼女は「変なの」と肩をすくめる。まあね、確かに変な話だ。変な、偶然の重なった、三角関係の形だと、思う。 さんかくのかたち 戻る → |