君と話したい 「御堂筋君」 登校してから放課後まで、彼はほとんど喋らない。朝のホームルームと授業中の出席の返事や先生に問題をあてられた時に答える時。それ以外で、彼の声を聞いたことがない。休み時間は、教室の自分の机でイヤホンを耳に付けて何かを聴いている。彼に話しかける人は、ほとんど、いない。 「あの、御堂筋君」 「…何」 私が彼に話しかけたのは昼休み。大体の人が昼ごはんを食べ終え、それぞれの時間を過ごしている時。彼の近くにいたクラスメイトが、ちら、と私と彼を見た。 「あの…」 小さい声でめんどくさそうだったが、返事をしてくれた。イヤホンを片方だけ外して、少し眉間にシワを寄せてこちらを見る。 「あのね、放課後…その」 「…」 「…えっと」 「…」 ガタン、と御堂筋君は椅子から立ち上がり、私が驚いてぽかんとしている間に、教室から出ていってしまった。ウォークマンだけが、彼の机の上に残っている。 「みょうじさん、よく御堂筋に話しかけたなぁ」 「え」 御堂筋君のナナメ後ろの席に座っていたクラスメイトの一人が、私に話しかける。 「あいつ、話しかけても大抵無視するやん。会話しようとせんから、話づらいし」 そう言うクラスメイトの周りにいた人達も、彼に同調して頷いた。確かに、御堂筋君はクラスの誰とも会話をしようとしないし、自分から誰かに話しかけたりするところを見たことがない。 「御堂筋に、用事だったの?」 「…うん、ちょっと」 「まさかだけど、好きとか?」 冗談のつもりで、クラスメイトは言ったのだろう。私は笑って、「違うよ」といったけれど、クラスメイトの冗談は、ずばり的中。私は、御堂筋君に惹かれていた。 「御堂筋君」 「…また、キミィか」 放課後、昼休みのリベンジ、と思い、彼に話しかけた。あからさまにめんどくさそうな声色と表情で、顔には「迷惑、話しかけるな」と書いてあるようだった。私を無視して教室のドアへと歩いていく御堂筋君の制服を掴んで引き留める。迷惑そうな顔で、こちらを振り向く。 「…何」 「あの、ね…!」 「ボク、部活あるし、暇やないんやけど」 「わかってる!でも…その」 どうしても、言いたいの。 心の中で呟く。 「私、去年…インターハイ見たんよ。親戚がな、出とって」 「何の話…」 「御堂筋君が、出てるって知らんかったんやけど、そん時に見て…」 御堂筋君も、あんなに必死になったりするんだって、驚いた。自転車の事はよくわからないけれど、御堂筋君の走りに圧倒されてしまって、気づいたら御堂筋君を応援していた。こっそり、遠くから部活の様子も見ていた。普段、教室じゃ全く喋らないのに、部活では指揮塔となって部員に指示を出している様子に、頑張ってるんだなぁ、なんて思った。 「いつの間にか、なんか…」 「キミィが、何言ってるかわからへん」 「だから!」 大きな声を出して、私より幾分も背の高い御堂筋君を見上げると、彼は一瞬ビクッとして、目を逸らした。 「御堂筋君と、話したいの」 「…」 私の言葉に、御堂筋君は黙ったまま怪訝な顔をする。少しの間、固まったように動かなかった。御堂筋君、と私が名前を呼ぶとさっきよりも大きくビクリと反応する。 「…御堂筋君のことが、好きだから」 「は…」 「…いきなり言われても困るよね…だから、だからね」 友達になって、私が一番、御堂筋君と話をしたり、一緒にお昼を食べたり出来ればいい。朝から放課後まで、ほとんど誰とも会話をしない御堂筋君の、一番接する事が出来る人になれればいい。 「いろんな、御堂筋君が見たいの」 「…キモォ」 御堂筋君の返事は一言だけ。 耳が、真っ赤に染まっていた。 ----- 2016/01/02 |