二人のステップ 付き合って3ヶ月、手も繋いだしキスもした。誰だって次のステップを考えるはずだ。それが男であろうと、女であろうと。でも実際は?本当に、誰でも考えることなのか?ここまでの関係で満足している、と何故思わないのか? 「そりゃぁ、男と女だしよぉ〜、次がなけりゃ誰も考えねぇだろうが、次はちゃんとあるんだし」 「だからよぉ、その次が、次を考えてるか考えてねぇかって話で」 「何が言いたいのか訳わかんねぇよ、億泰」 億泰自身、何を言っているかわからなくなってきていた。恋人とのステップを、どう進めていけばいいのかという相談だったのだが、途中からこんがらがっている。ダメだダメだ、と頭を振る。あんまり考え過ぎると熱がでちまう、と億泰はため息をついた。 「康一はわかるか?億泰の言ってること」 仗助が横に座っている康一に問いかける。康一は「う〜ん」と少し考えてから、「なんとなく」と答えた。 「わかるのかよ」 「僕も考えたことがあるから。…由花子さんとのこと」 「そうだよなぁ〜!康一は俺とあいつより先に由花子と付き合ってるし、付き合い長いもんなぁ!」 「うん…二人で歩んで行くものだし…お互い同じ気持ちだとは、限らないからね」 「そう!それ!それだよっ!」 ビシッと康一に指を突きつけ億泰が言う。さすが康一!伊達にあの由花子と付き合ってねぇなぁ、と関心していると、仗助が「なるほど」と呟く。 「つまりィ、億泰も康一も自分の女とヤリてぇけど、相手がその気かどうかわかんねぇから悩んでるってわけか」 「ばっ…!んなハッキリ言うなよなぁ!」 億泰は柄にもなく顔を赤く染める。そんな様子を仗助はからかって、康一も遠慮がちに笑う。自分でも、変だと思う。人のこういう話や下ネタなんかは平気にからかいながら話せるのに、自分のこととなると、弱い。 「でも確かになまえって、そういうことは、考えてなさそうだよなぁ」 なまえ、というのは、億泰の恋人だ。大人しい、真面目な学級委員長みたいなタイプで、かと言って暗い訳ではなく、周りに溶け込むのが上手い、明るい女子生徒だ。吉良の親父に矢を刺されスタンドを開花させず、普通に過ごしていれば、億泰とは一生関わりのない生活だったかもしれない。真面目な彼女と億泰が付き合っている、と知れた時、随分噂になったものだった。 「なまえ、デートしてる時に手を繋いで歩いてるだけで幸せだって言うしなぁ…今日、家に来るんだけどよ、俺の部屋に来ても、二人で肩並べて座ってるだけでいいとか言うしよぉ」 「結局のろけかよ…康一は?由花子とどうなんだよ」 「僕はもう、悩んでるわけじゃあないけど…」 「ってことはまさかお前…」 「あっ、そうだ…これ。億泰君にあげるよ」 ごそごそと自分の鞄を康一が漁る。取り出したのは薄い、四角い形をした袋。三つ、繋がっている。康一がそれを億泰に渡すと、億泰はポカンと手のひらに乗ったそれを見つめた。 「それ、使っていいよ。まぁ、今日使うかどうかは、二人の気持ち次第だけど…こういうことって、やっぱりお互いの気持ちが大事だから…」 「たまげたなぁ〜…康一、お前マジかよ?」 「僕らは、なんていうか、自然に…なるようになるんだよ、お互いの気持ちがそうなら」 康一はそう言って立ち上がり、時計を確認すると、「塾の時間だから」と教室を出ていった。億泰は未だに手のひらを見つめていた。 「それ、しまえよ、億泰」 「あ、あぁ…」 仗助に言われて、億泰はやっとそれをポケットにしまった。持っているだけで、何だか恥ずかしい気持ちになる。なんとなく、今日、そんな雰囲気になりそうな、次へ行けるような気さえしてくる。 「康一に感謝しとけよ。お前も今日、晴れて童貞卒業だぜぇ〜!」 「いや、でもよぉ…なまえがその気じゃなかったら」 「バカ、その気にさせるんだろうが」 なっ!と仗助が笑う。その後も、億泰は仗助にからかわれつつも励まされながら、帰路に就いた。途中で仗助と別れ、自宅が見えた頃にはもうなまえが家に着く時間だった。ヤバイ、ちょっと仗助達と長話し過ぎたか、と小走りで自宅へ向かう。 「億泰くん」 「なまえ」 玄関を開けようと鞄から家の鍵を探している時、丁度なまえが億泰の家に着いた。今帰ってきたの?と問うなまえに、鍵を開けながら億泰は答えた。 「仗助達と教室で話してたら遅くなっちまって」 「ふうん…何話してたの?」 「あー…えっと、新しいゲームの話だよ。むずかしーやつなんだ」 まさか正直に話せる訳もなく、内容をごまかした。なまえはそれ以上聞くことはせず、そっか、とだけ答えた。何を話していたかなんて、実際はそんなに興味がないのだろう。 「お邪魔します」 「俺、着替えてくるからよぉ、適当にくつろいでてくれ」 「はーい」 なまえはリビングへ向かい、億泰は二階の自室へ向かった。制服を脱ぎ、楽な服へと着替える。ついでに少し散らかっている床の漫画本なんかを棚に戻した。脱いだ制服を片付けようと手に持った時、ズボンのポケットから、康一にもらったそれが、床に落ちた。 「…どうすっかなぁ」 ぽつり、と億泰は呟く。貰ったからには、使いたい。むしろその気持ちのほうが、どうしようか、なんて気持ちよりも上回る。けれど、康一が言っていたように、お互いの気持ちが大事、だということは充分わかっていた。そして、もしなまえに拒否されてしまったら、と考えると、気分はどん底にまで落ちてしまう。大事にしたい、嫌われたくはない、でも…ほんのチョッピリ、期待してしまう。 「億泰くん?」 「うわっ!?」 部屋の扉からなまえがひょこっと顔を出す。下で待っているはずのなまえに驚き、声が出る。「遅いから…」と言うなまえに億泰は謝りながら「今行こうとしてたんだ」と手に持った制服を乱雑に畳んで床に置く。と、目につくのは康一にもらい、今の今まで使うか否かを考えていたそれ。しまった、と思いサッと拾い隠すも、なまえが恥ずかしそうにうつむき、「それって」と呟く。 「あぁー、これはだなぁ…なんつーか、その貰って…」 「・・・」 「べ、別に!今日使うからって訳じゃ、」 「つ、使う?」 わたわたと焦りながら誤魔化そうと必死になっていると、なまえが小さな声で億泰に問いかけた。億泰の動きが、ピタリと止まる。 「え?」 「だ、だから…それ、億泰くんが持ってるやつ」 「これ…これを?」 「今日…使ってみる…?」 なまえが部屋の中に入り、パタン、と扉を閉める。ドクン、と億泰の心拍数が上がる。目の前の彼女は真っ赤な顔で、上目遣いをしながら億泰を見る。一歩、二歩、と億泰はなまえに近づき、目の前まで行くと、丁寧な手つきで彼女の左手に触れる。 「…いいのか?」 「う、うん」 「俺と?」 「億泰くんだから、億泰くんが、良い…」 きゅっ、となまえが億泰の手を握り返す。その手を引いて、ゆっくり、扉から離れてベッドへと近づいていく。少し、なまえが手に力を込めた。 「大丈夫か?」 「うん…」 「…なまえ」 「何?」 好きだ、と億泰がなまえに伝える。それを受け、なまえは恥ずかしそうに微笑み、私も、と応えた。 ----- リハビリおっくん。 実は純情なおっくん。そんなおっくんが好きです。 2015.12.24 |