見つかってはいけないモノ

掃除をしているなまえの手が、ピタリと止まった。二階の書斎の本棚の一番上の段、右端から3番目。それは、本来ならベッドの下とか鍵付きの引き出しの中とか、そういった場所にありそうな、隠しておかなくてはならないもの、だとなまえは思っている。けれどもなまえが見つけたそれは、分厚い昆虫図鑑と、これまた分厚い海外版の植物図鑑の間に、堂々としまってあるのだった。ゴクリ、と唾を飲む。ここは、積もっている埃だけをキレイに掃除して知らない振りをするべきか、それとも掃除は後回しにして、「これは一体どういうことだ」と問い詰めるべきなのか。

悩んでいる間に、下から「二階はあまり使わないし適当で良いよ」と声がした。これは、もしかしてこれが書斎にあると気づいた彼の警告の声だろうか、となまえは考える。いや、と首を振り、その背表紙を見る。こんなに堂々と置いてあるくらいだ、きっと隠すつもりはないのだろう。資料、かもしれないし。

「おい、聞こえてないのか?適当で良いって…そこの本はどうせ捨てるつもりだったんだ」

捨てる?資料のはずの本を捨てるなんて、嘘くさい。見られたくなくて、そう言っているのか?それに、あえて、堂々と置いたとしたら?そんな考えがなまえの頭の中に浮かんだ。こそこそベッドの下なんかに隠すより、逆に堂々と本棚に並べりゃ気付かない、あいつは本に興味なんかないからな、と。

「おい、なまえ?」
「このくそったれぇっ!!」
「な…うわっ!?」

自分の頭の中だけで答えに行きつき、キレたなまえがぶんっ、と図鑑と図鑑の間からそれを抜き取り書斎に入ってきた家主に投げつける。投げつけた勢いでぐらり、と台にしていた椅子が動いた。

「何キレてんだか知らないが…危ないから椅子の上に立つのは止めろ…」
「そうね!私の背が高くなると見つかっちゃいますもんね!」
「はぁ?君は何を言ってるんだ」
「それよ、それ!」

なまえが先ほど投げつけ、今は床に落ちたそれを指差す。なまえが指差した方向を彼が見ると、彼は投げられたそれが何だったのか、理解し、そしてギクリと顔をしかめた。

「あ〜今ギクッとしたわね…やっぱり!あなたのなのね、露伴」
「…これは」
「それは?何かしら、言ってみなさいよ」

言えるもんならね、となまえは己のスタンドを現す。接近戦を得意とする、パワー型だ。今なら、まだ露伴が有利だ。というか彼女にとって露伴はいつも不利な相手だった。スタンド勝負だけなら。スピードは露伴のヘブンズ・ドアーの方が上だし、彼女を本にして今見たものを忘れると書き込めばそれでいい。しかし、なまえは露伴の恋人だった。恋人として、してはいけないことがある。彼女を本にして何かを書き込むことは、してはいけないこと、のはずだ。

「これは、このアダルトビデオは…」

ピクリ、となまえの眉が動く。余計な事を言えば、すぐさまなまえのスタンドの拳が飛んでくるに違いない、と露伴はなまえにバレないようにこっそりため息をついた。

「考えてる…?私への言い訳かな?でも、もうそんなの意味ないよねぇ。ギクッてしたもの。自分のものだと、認めた…」

「…認めちゃいないさ、君に見つかって、ちょっぴりビビったんだ」

「だからそれがぁっ!そのアダルトビデオは自分のだって、認めたってことでしょう!」

「いいや、違うね。確かに、君に見つかると都合の悪いものだが…僕はこれが今の今までどこにあったかも知らなかった」

「でも、家のどこかにはあると、知ってた」

そうでしょ?となまえが露伴を見る。露伴は、それの存在を今なまえに責められるまで、すっかり忘れていた。この事実を、どう彼女に伝えたらいいのか?今にも拳を振るいそうな彼女の怒りを鎮め、上手く丸め込むにはどうするか。

「なぁ、まずはその椅子から降りて…下のソファーに座って冷静に話をしないか?」

「・・・」

「わかった。結論から言おう。これは、僕のじゃあない」

露伴が床のアダルトビデオを指差して答える。なまえは露伴を睨んだままだ。家主である露伴の物でなければ、一体誰の物だと言うのか。編集者の、とでもいうのだろうか。漫画の資料として置いていったとか。なんて、あるはずない、となまえは首を振る。大体、彼の描いている漫画は少年漫画だ。際どいシーンはあったとしても、そんな具体的なシーン描くはずがない。

「これは」
「資料とか言ったって信じないからね!」
「…そんなわけないだろう。こんな嘘くさいもの資料になんか…」

ブンッ、と露伴の左頬を風が掠める。横目で左方向を見ると、彼女のスタンドの腕。あぁ、口が滑った、と露伴は後悔しながら今度はなまえ隠すことなくため息をついた。

「見たのね…?」
「いや…それは」
「見たから…そのアダルトビデオを観賞したから、嘘くさいって断言出来るのよねぇ!?」

なまえが椅子から降りる。静かに露伴に歩み寄る。スタンドは、既にしまっていた。

「なまえ、落ち着いてくれ、本当に僕のじゃあない。あれは仗助と億泰が…」

「もうそんなのどうでもいいの!露伴のであろうとなかろうと、あなたは今!それを観たってことは認めたのよ!私の前で!」

「い、いや…」

バチン!と音が書斎に響いた。露伴の左頬が赤く腫れる。ふう、となまえが息を吐いてから、床のアダルトビデオをスタンドで破壊した。

「仗助くんと億泰くんには…私から話すから」

「あ、あぁ…」

「私に…何か」

「ごめんなさい」

素直に謝罪の言葉を口にすると、なまえは満足したのかにっこりと笑う。

「今度見つけたら、絶対に許さないから」


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久々に書いたリハビリ露伴ちゃん。書き方忘れて支離滅裂です。
しばらくリハビリします…


2015.12.23

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