!君を繋ぐ約束

!ブラック三男


「ねぇ、どういうことか…わかってる?」

他の兄弟と違って真面目で人の目を気にする、垂れた眉やへの字の口が似合うちょっと気弱な冴えない男。チョロ松を誰かに紹介するとしたら、きっと誰もがそういった説明をするだろう。温厚、善良、人畜無害。彼に対して、そんな言葉をよく聞く。しかし、私は彼の怒りが頂点に達した時の表情や声を知っている。きっとあの六つ子の中じゃ、一番ヤバイ。そんなことを考えながらも、「初めては、いつだっけ」と頭の片隅でぼんやりと思った。確かまだ高校生の頃。チョロ松と付き合って一年が過ぎてすぐくらいの事だった。当時、私はサッカー部のイケメンエースに告白されて、舞い上がっていた。もちろんチョロ松と付き合っていたから断るつもりだったが、そんなイケメンに告白され少し調子に乗ってしまった私は、「今は付き合ってる人がいるから…考えさせて」と彼に返事を焦らしたのだ。チョロ松がヤキモチ妬いてくれるかも、と期待もした。そして、それがチョロ松の耳に入り、まだ授業が残っているのに呼び出されて、人気のない旧体育館の裏の使われていない倉庫に連れて行かれた。あの時のチョロ松の表情は、

「ちょっと、今他のこと考えてるでしょ」

あぁ、そうだ。今と同じ顔してた。いつもの困ったような笑顔はそこにはなく、仮面が張り付いたような笑みで、こちらを見る目は怒りに満ちている。口から発せられる声はいつもより少し低く、言葉は変わらないように見えて、語尾がキツい。完全に怒っている。

「チョロ松…怖いよ」
「…何で?」
「だって、怒ってる…」
「うん、怒ってるよ。なまえは、僕が何で怒ってるかわかる?」

する、と私の頬をチョロ松の手が撫でる。私は恐る恐る首を横に振った。今日、チョロ松と偶然道で会った時、彼は既に怒っていたように見えた。腕を掴まれ、あの時と同じように強引に連れられ、いつのまにか知らない場所に来ていた。ここは何処なのかと何度聞いても、チョロ松は答えてくれなかった。ただ暗くて、そして人気のない場所だと言うことだけは何となく想像がついた。

「さっき、おそ松兄さんと一緒にいたね」
「え…」
「デートしてたって、おそ松兄さんは言ってたけど」
「それは、おそ松の冗談じゃない…!偶然会って、暇だから少し遊ぼうって誘われて、それで一緒にいただけで」

チョロ松と会った時、確かに私の隣には、おそ松が一緒にいた。買い物をしていた時に、偶然会い、おそ松の暇つぶしに付き合っていただけだ。もしかして誤解しているのだろうか、と私はチョロ松に成り行きを説明する。それを聞きながらチョロ松は私の肩にかかった髪の毛をくるくると触り、遊んでいた。何を考えているのかわからないチョロ松に、私は、不安を覚える。あの時は、どうしたんだっけ。どうして許して貰えたんだっけ、と記憶を辿る。

「別に、なまえが浮気してるとか、そう言ってるんじゃないよ」
「してないよ…浮気なんか」
「わかってるよ。でもさぁ、無性に腹が立つんだよね。兄弟だからかなぁ?知らない男がなまえにキスしてるより、兄弟の誰かがなまえの横にいるだけの方が、数段、腹が立つ」
「え…?」
「ここを見つけてよかったよ。本当はにゃーちゃんやトト子ちゃんのライブの為に振り付けとか、かけ声とかの練習の為に見つけた場所なんだけどね。ほら、そんなところをあいつらに見られたらまたアイドルヲタクって弄られるからさ…あぁ、でも、本当、ちょうど良かった」

す、と私の目を隠すように手を添えるチョロ松。見えないよ、と言うとチョロ松は笑って「いいんだよ」と囁いた。

「もう僕以外、見なくていいよ」

思い出した。あの時、私は、

『ごめんなさい、チョロ松…』
『もう僕にヤキモチ妬せないで。他の男に期待持たせるのもダメ』
『はい…でもね私、本当にチョロ松一筋なんだよ』
『わかってるよ。なまえは僕の…あぁ、そうだ。じゃあ約束して』
『約束?』
『僕以外の男と二人きりにならないって』
『うん、約束する』
『本当?破ったら、一生閉じ込めておくからね』

許されてなんか、いなかった。

「約束、破ったね」

君は一生僕のものだ、耳元で低く、甘く、囁かれた。


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ブラック三男。
書きたかった物と大分違ってしまいました。

2016/01/22

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