おやすみ、大切な人

目を覚ますと、そこは見慣れた手入れ部屋だった。そういえば戦で軽傷を負って入っていたんだった、と手入れを終えキレイになった自分の体を確認する。障子の向こうはもう太陽の光は消え、真っ暗で闇しか見えなかった。誰も手入れ部屋に入る様子がなかったので、そのまま休もうと寝ていたことを思い出す。主はどこだろう、と頭の中で主の心配する姿を思い浮かべながら手入れ部屋から出た。

主の部屋に向かおうと廊下を歩いていると、ある部屋から光が漏れ、騒がしい音が聞こえてきた。うるさいな、と思い文句でも言ってやろうとその部屋の障子を開けると、部屋の中央で酒盛りをしている刀達と目が合った。部屋の中は酒が入っていただろうと思われる瓢箪や樽が空になって転がっていた。それから主に貰ったのか現代の酒やつまみが散乱している。

「ちょっと何これ…!酒くさいし、汚いし…!」
「あ、加州清光じゃぁ〜ん、あんたも飲んでく?」
「手入れ部屋から出たばっかりだろう?復帰祝いってとこで、どうだ?」
「飲まないよ!祝う程の傷じゃあないし…」

俺を誘うのは酒盛りの中心と思われる二郎太刀と日本号だった。二人の側にはへし切り長谷部が横たわっている。無理やり付き合わされて潰されたんだろうな、と長谷部さんに同情した。

「えー、何でよ、いいじゃん!兄貴も先に休むって部屋に戻っちゃったし、光忠さんもつまみ作るって言って帰って来ないのよ〜」
「それ、逃げたんじゃないの…」
「長谷部さんはこの通りだし…飲みましょうよぉ」
「嫌だって!大体、俺はこれから主の部屋に…」
「主?主ならここにいるぜ?」
「は…?」

日本号さんが少し横にずれると、彼の後ろから主の顔が見えた。横を向いた顔は頬を赤らませ、体はうつ伏せに寝ている。

「主っ!」
「寝てるだけだよ、心配すんな」
「何で主がこんなことなってんの!?てゆーか…主に何もしてないよね」

日本号さんを睨むと日本号さんの後ろで次郎太刀が大きな声で笑う。そして「ちょっとお酒飲んだだけよぉ」と手に持ったお猪口をぐい、と飲み干した。

「長谷部が先に潰れちゃったからね、なまえちゃんを止める人がいなくなっちゃったのよ」
「それならあんた達が止めてよ…主、お酒弱いんだから…」
「やっだ!あたし達が止めるわけないじゃなーい!」

そう次郎太刀に言われ、俺はため息をつく。主、と声をかけても起きる気配がない。仕方ないな、と主の体を起こし、抱き抱える。主の部屋に連れていくのか、と日本号さんに問われ、こんな汚れた場所に主を放置したくないから、と言い残して部屋を出た。「送り狼になるなよ」と後ろから日本号さんの声がする。誰がそんなことするもんか、と腹が立ったが声を無視して主の部屋へ向かった。

「主、大丈夫?」
「ん…水…」
「はい、飲んで」

主を布団に寝かせ、水を飲ませる。どうにか目を覚ました主はまだぼーっとしたままで、きっと俺が誰かもわかっていない状態だろう。もう一度大丈夫かと聞くと、へら、と顔を緩ませ呂律の回らない言葉で大丈夫だよ、と言った。

「大丈夫じゃないよね…絶対」
「清光…」
「あ、誰かわかった?見えてる?俺のこと」
「ん、清光…」

俺に手を伸ばす主。その手を握ると主は嬉しそうに笑ってまた俺の名前を呼ぶ。その声にドキドキしてしまって、どうにも落ち着かない。笑う顔は酒のせいで頬が赤く、瞳は潤んで、まるで誘っているみたい、なんて。

「…っ、もう寝て!明日に響くから…」
「うん…おやすみ、清光」

目を閉じて、数分も経たずに寝息が聞こえる。俺はそっと主に近付き、主の唇に口づけた。我慢するから、これくらいは許してね、と心の中で呟く。

「おやすみ、主」


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加州ちゃんが大好きです。

2016/01/19

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