お付き合いをしよう


「ねぇ、やっぱり俺達付き合おうよ〜」

ベッドの下に脱ぎ捨てられた服を着ながら、おそ松がそう言った。いつものパーカーを着て、下はまだ下着だけで、ズボンを穿いていない。そんな状態で言う言葉だろうか、とため息をついて、私は「無理」と返事をした。

「何でだよ?もうやることやってんじゃん。あとはもう、お互いが彼氏彼女って、認めるだけだよ?」

肩をすくめて、今度はおそ松がため息をつく。そうしてズボンをはいて、床のクッションを引き寄せそれを座布団がわりにあぐらをかいて座った。

「おそ松と付き合うくらいだったらトド松選ぶ。女の子の扱い慣れてるし」
「何言ってんの。あいつはドライモンスターだよ?表面上は良くても心の中じゃ何考えてんのかわかんないって」
「顔ならカラ松。キリッとしてるし、自信に満ちてる」
「間違った自信だけどね。それに四六時中痛い発言浴びせられるよ」
「性格ならチョロ松かな」
「いやいや、まともそうに見えるけど取り繕ってるだけだから!兄弟じゃ俺が一番」
「一松」
「友達いないあいつが恋人なんて作ると思う?付き合ったとしても何するかわかんないし怖いよ〜?」
「十四松」
「ついていけないって」

よくもそんなに兄弟達を否定する言葉が出てくるもんだ、とある意味感心してしまう。「俺にしろよ」なんてかっこいい台詞、まさかこのニートから聞くとは思ってもみなかった。どうせズルズルと不毛な関係を続けて、いつかおそ松に私とは別の彼女が出来たらこの関係が終わるものだと考えていた。

「俺達ってさ、お似合いだと思うんだよね。好きなものとかも一緒だし」
「…例えば?」
「競馬と煮込みだろー、パチンコ…は、やらないんだっけ」
「競馬だっておそ松から教えて貰っただけで、好きって訳じゃない」
「まぁまぁ。それにさー、体の相性もいいし!大事な事じゃん、これ」

性の不一致は別れたり離婚の原因にもなるからね、としみじみ言うおそ松に、私はバカじゃないの、とベッドの枕を投げてやった。

「体の相性が重要なら、今のままでいいじゃん」
「わかってないなぁ。俺はなまえとセックスなしのデートとかがしたいわけ。待ち合わせは家じゃなくて、街中でさ」
「なにそれ」
「だから、つまり」

おそ松がコホン、と咳払いをする。ベッドの上で毛布にくるまったままの私をじっと見つめ、「俺は」と口にする。待って待って、その続きは言わないで。

「なまえが…」
「だ、大体!付き合うとか言うけど、私とおそ松じゃ釣り合わない」
「…何が?」

途中で口を挟まれたからか、少し不機嫌な口調で私に聞き返す。だって、と口ごもる私をおそ松がベッドの上に上がって「言ってみろよ」と隣から睨みつける。

「おそ松はバカだしニートだし常に金欠で、私は大学生で頭は良いし将来有望だし、高校からずっとバイトしてたから貯金もあるし」
「バカは余計だ」
「それにおそ松はお調子者で冗談ばっかり言うし、バカで、ニートで、クズで、人間の底辺で」
「お前言い過ぎだろ!つーかさっきも言っ…」
「でも兄弟想いで意外と頼りがいがあって一緒だと楽しいし」
「え…?」
「…私なんか根暗だし思いやりもないし気が利かないし」

釣り合わないよ、私じゃ。私はおそ松に何も出来ない。一緒にいたって楽しくないし、喜ばせることも出来ない。

「私じゃダメなんだよ…付き合ったってきっと嫌いになる」

だから何も言わないで。おそ松にお似合いの可愛い女の子が彼を見つけたら、私はその時身を引くから。だからまだ、この関係でいさせて欲しい。

「…よくわかんないんだけど、根暗で思いやりがないから俺と付き合えないの?」
「…おそ松はいい人だから無理」
「バカでニートでクズで人間の底辺ですけど?」
「…言い過ぎた」

いつの間にか頬を伝う涙を拭い、私は隣に座るおそ松に背を向けた。

「…怖いの。付き合って、私の嫌な部分をおそ松に知られて、嫌われるのが」
「バカだなぁ、なまえ」
「バカにバカって言われたくな…」

私の言葉を遮っておそ松が振り返った私にキスをする。呆気にとられてポカンとおそ松を見つめるといつもの笑顔で笑う。

「俺はなまえのそういうところも全部好きだよ」

ずるい、ずるい。そんなことを言われたら、もう頷くしかないじゃないか。


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長男さん。何だかんだでいい子だよね、彼は。

2016/01/16

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