私の王子様 「僕は君を愛している!しかし…僕らは決して結ばれない運命なんだ!」 「何故…!?私だって、貴方をこんなにも愛しているのに…!」 今巷で大人気の若手俳優とアイドルが主演のよくある恋愛映画。私は恋愛映画よりもアクション映画やSF映画の方が好きだったし、若手俳優よりも大御所のダンディーなおじ様俳優の方がタイプ。アイドルにいたっては微塵も興味がない。この映画だって、映画館でわざわざ観るつもりもなかったし、レンタルするほど観たいわけじゃないから、きっと一生観ないはずだった。なのに、私がこの映画を映画館で観ているのは、横で真剣にスクリーンを観ている男に誘われたからだった。 「僕たちは…血の繋がった兄妹なんだ!」 「なにっ…!」 俳優の台詞に思わず言葉を漏らした。いや、明らかにわかってることだったでしょ、とツッコミを入れたい。そんな、ありきたりな映画も純粋に楽しむ彼から誘われたのは昨日の夜。急に電話がかかってきて、チケットがあるから一緒に行こうと誘われた。久しぶりのデートのお誘い。断る理由なんてあるはずもなく、私は二つ返事で承諾した。 「中々、良い映画だったな」 映画が終わり、暗い劇場から出ると、男、松野カラ松はサングラスをかけながら映画の感想を口にする。私は「そうだね」と相槌を打ってカラ松の横を歩いた。映画は、確かにカラ松が好きそうな設定の映画だった。運命とか赤い糸とか、くさい台詞回しが私にはだいぶこそばゆかったけれど。 「おっと…空が今にも泣きそうだ」 映画館から出ると、空を見上げてカラ松がそう言った。今日の天気は曇りのち雨。確かに、今にも雨が降りそうだった。そんな天気の中、サングラスをかけているカラ松を見てため息をついた。今は目を眩ます太陽も、雲に隠れて顔を出す気配すらない。まだ昼過ぎだというのに、外は少し暗い。サングラスなんかかけて、視界が暗くないのだろうか、と私はいつも思う。 「サングラス、一松に壊されたんじゃなかった?」 「あぁ…だから新調した」 「ふーん…」 「かっこいいだろ?」と聞くカラ松に「そうだね」と再び適当な相槌を打ち、頭の中では一松がまた壊してくれないかな、なんて考えてしまう。 「昼はどうする?なまえは何が食べたい?」 カラ松にそう言われ、そういえばお腹空いたな、と朝から何も食べていない空きっ腹を服の上から撫でた。映画館に入ったのはお昼少し前だったから、とっくにランチタイムは過ぎている。値段も安いしファミレスやファーストフードで軽く済ませる位でいいかな、とカラ松に言おうとした時、カラ松が「そうだ」と口を開く。 「この前、新しく出来たカフェに行くか」 「えっ」 「パスタ、好きだろ?そこのカルボナーラが…」 「い、いいよ!ファミレスとかファーストフードで!」 安価でお手軽だし、と言うと、カラ松はあからさまに残念そうな顔をした。予想外な表情に少し戸惑う。いつもはお金がないと言って外食はファミレスかファーストフードなのに。 「そんなにカフェ行きたかったの?…いつもファミレスじゃん、ドリンクバー死ぬほど飲んでるじゃん」 「いや…行きたいというか」 「…何?」 理由を聞くと、カラ松が恥ずかしそうに頬をかく。 「なまえが…喜ぶかと思って」 そう恥ずかしそうに呟く。耳が赤い。サングラス越しに見えるカラ松の目がちょっと伏し目がちに動く。あぁ、こういうところが大好きなんだ。 「それに、チケット…母さんから俺達に誰か使うかってくれたんだけど、皆興味ないって言ってたから貰って…恋愛映画だし、映画よりかっこよくデートした方がいいかと…いつもファミレスやファーストフードじゃ、かっこ悪いだろ…」 計画していた作戦がバレたかのように、カラ松は話す。きっとかっこよくエスコートしようとしてくれていたんだろう。映画に負けないように。 「ありがと、カラ松」 残念ながら映画の主人公みたいに高級車は持っていないし高層マンションにも住んでいない。かっこつけてるサングラスも目が合わせられないから嫌いだし、あんまり似合っていない革ジャンも脱いで私が選んだ服を着て欲しいけれど、私にはやっぱり最高の王子様。 「じゃあ、今日はそのカフェでランチしよ」 「あ、あぁ…!カルボナーラがオススメなんだ、パルメザンチーズがたっぷりで、それにベシャメルソースも」 「ふふっ…ねぇ、カラ松」 名前を呼んで、振り向いた彼に軽くキスをした。映画じゃ主人公からキスしてたけど?と笑えば、デートの最後にとって置いてるんだよ、とサングラスをずらして私にウインクをした。 ----- カラ松は横文字覚えるの早そう。 2016/01/13 |