期待せずにはいられない

「旭さん!帰りましょー!」

部活が終わり、制服に着替えていると一足早く着替え終えた後輩が部室の外から東峰に声をかける。他の部員たちも、部室から出て行くところだった。慌てて荷物を持ち、後に続いて部室を出ると部長の澤村が鍵を持って東峰が出てくるのを待っていた。

「旭、この後予定でもあるのか?」
「えっ…!?な、何で?」
「いや、いつもより…ちゃんとしてるっていうか」

いつもボサボサのまま帰るくせに、と澤村が笑う。澤村にそう言われ、東峰は内心ドキリとした。澤村の言う通り、今日は帰る前にいつもは適当に結ぶ髪をちゃんと結び直したし、制汗剤も使った。つまり、身なりを整えたのだ。それを悟られたくなくて、誤魔化そうとしたが「まぁどうでもいいけど」と澤村が冷たい言葉を吐いて部室の鍵を閉めた。

「あ〜腹減ったっスね〜」
「鳥養さんとこで肉まんでも買うか」

部員たちの会話を聞きながら東峰は自分で整えた髪の毛を触る。ちょっと、あからさま過ぎただろうか。大地に気づかれる位だし、と少し不安になる。どう思うだろうかと、これから会う人物に想いを馳せ、そわそわと落ち着かない。

「何そわそわしてんスか?旭さん」
「えっ、あ、西谷…」
「肉まん買わないんですか?」
「あ…」

いつの間にか坂ノ下まで来ていた。西谷が肉まんを頬張りながら東峰に話しかける。売り切れちゃいますよ、と背中を押され店の中に入る。皆につられて肉まんを買って、ついでにアイスも二つ買った。手土産としては微妙かもしれないが、まぁ仕方ない。何もないよりは良いはずだ、と東峰は自分に言い聞かせ、「用事があるから」と先に店を出た。

部員たちに「用事」と言って向かったのは、クラスメイトのみょうじなまえの家だ。なまえは二年生の頃から付き合っている、東峰の彼女だった。今日はなまえから誘ってもらい、家に招かれていた。身なりを整えたのも、そわそわしていたのも、彼女の家に招かれたということが、東峰をそうさせていた。深呼吸をしてから、インターフォンを押す。

「旭くん」
「こんばんは、なまえちゃん」

すぐに、なまえが出てきた。入って、と家の中へ招かれ、お邪魔しますと言いながら中へ入る。料理の良い香りが、鼻を霞めた。

「部活帰りだよね?ご飯作ったの!」
「なまえちゃんが?」
「うん!親が旅行でいないって言ったでしょ?だから、たまには作ってみようかなって」

なまえが料理を作ってくれたことに、東峰は嬉しさを隠さずに喜んだ。そんな東峰の様子を見てなまえが照れながら笑う。

「あ、これ…帰りに部活の皆と坂ノ下に行って、買って来たんだ。アイスと…肉まん」
「変な組み合わせ…」
「アイスはなまえちゃん好きだし…肉まんは、みんなにつられちゃって」
「旭くんらしいね」

なまえはくすくす笑い、ありがとうと東峰から肉まんとアイスの入った袋を受け取った。アイスはデザートに食べようね、となまえは嬉しそうに冷凍庫に入れる。

「肉まんはー、お腹空いたら食べよう!今日は夜更かしだから」

なまえの言葉に、東峰の心臓が跳ねる。なまえは何気なしに言ったのだろうが、東峰は意識せずにはいられなかった。両親がいないこと、明日は土曜日だから学校は休みだということ、「泊まりに来て」と恥ずかしそうな顔で誘われたこと。どれをとっても、そういう意味で、誘われているようにしか思えなかった。
大人しいなまえに限って、そんなことはない。と頭を振るが、煩悩は捨てきれない。

「旭くん」
「な、なに…?」
「それ、美味しい?」
「あ、うん!すっごく美味しいよ!」

ボーッと考え込んでいた東峰になまえが不安そうな顔で聞く。どうやら口に合わなかったと勘違いしたようだ。全部美味しいよ、と東峰が料理を食べながら言うと、なまえほっと肩を落とし、おかわりを進める。そんなほのぼのとした雰囲気に、さっきまでの自分の考えはどこかへいった。期待が少しもないわけじゃないけれど、今日はなまえの手料理を食べただけで、充分幸せだった。

「ね…旭くん」

そんな東峰の気持ちを知ってか知らずか、なまえが口を開く。

「私、旭くんなら嫌じゃないからね」
「え…」

顔を真っ赤にしてそう言うなまえに、東峰の顔も赤く染まる。どういう意味かを聞こうとして、東峰が口を開くとなまえはさっと顔を反らして食べ終わった皿を片付け始めた。

「え、あれ…なまえちゃん…?」
「あ、旭くんが買って来てくれたアイス、食べようか!」
「うん…でも、あの」
「あ、これ私がいつも食べてるやつ…じゃあ旭くんはこっち」

まだ頬を染めながら東峰にアイスを渡すなまえ。その表情を見て、東峰はゴクリと唾を飲み込む。
どうしても、期待せずにはいられなかった。


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いろいろ書きたいことがある旭さん。
しかしまとまらず書ききれないです!

2016.01.06

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