田所は、登校中、弁当を持ってくるのを忘れた事に気付いた。家に戻ることも出来たが、めんどくささもあり、今日の昼は購買でパンを買おうと考え、そのまま学校に向かった。しかし、それが間違いだった。昼休み直前、カバンから財布を取り出そうと田所がカバンを覗いた時、財布が見当たらないのに気付いた。教科書の影になってるのかとごそごそとカバンの中を漁ったが、財布は見当たらない。制服のポケットには入っていない。部活用のカバンにも入っていない。ここで、田所は思い出す。昨日、母親に小遣いをもらった時、カバンから財布を取りだし、お金をしまい、そのまま自室の机に置きっぱなしだ。

「田所っち、飯行くっショ」
「ま、巻島・・・」
「ん?」
「金を貸してくれ、昼飯分でいい」

田所を誘いに来た巻島に、田所は明日返すから、と頭を下げる。巻島は「弁当も財布も忘れたのかよ」と笑いながら、財布から五百円を取りだし、田所に渡した。田所は悪い、と巻島に謝り五百円を受けとると、急いで購買に向かう。巻島が後ろから先に食ってるぞ、と声をかけた。

「どうにか、買えたが・・・」

購買の戦いを勝ち抜き、田所は巻島に借りた五百円でパンを四つ、買っていた。いつもの自家製スペシャルバーガーと比べればパンは小さいし、量も少ない。自業自得だか、と田所は心の中で呟き、教室に戻った。

教室に戻ると、田所の席で巻島と輝が談笑していた。何してるんだ、と聞くと、輝がけらけらと笑いながら「お弁当忘れたんだってね」と言った。田所は一緒になって笑う巻島を睨みながら、椅子に座った。

「学食にしたらいいのに、購買の戦争、疲れたでしょ」
「学食じゃあ一食分しか食えねぇだろ、足りねぇよ」
「あはは、そっか」

輝はすでに昼御飯を食べ終わったのか、紙パックのジュースを飲んでいた。食ったのか、と聞くとうん、と頷く。

「食べるの早いっショ」
「うどんだったから、すぐ出てきたし、私猫舌じゃないからね」

乗ってたお揚げは友達にあげた、と輝が笑う。そういえば、輝は素うどんが好きなんだっけ、と焼きそばパンを食べながら思い出した。

「・・・田所っち、巻島君に借りた五百円、全部パンに使った?」
「ん?あぁ、そういや何十円か釣りがあったな、返しとくか?」
「いや、明日五百円返してくれればいいショ」
「あのさ、田所っち」

輝が困ったように笑いながら、パンを指差し、「喉、渇かない?」と田所に聞く。田所は、まだ食べていないパンを見ながら、あ、と声に出す。巻島も同じように、あ、と声を出した。

「巻島君の話聞きながら、もしかしたらって思ってたんだけど」
「田所っち、喉パサパサになるっショ・・・」
「いや!どっかに百円くらい・・・」

そう言いながら田所は制服のポケットに手を入れる。ズボンの右後ろのポケットに手を入れた時、小銭の感触がして取り出すと、ポケットから出てきたのは五十円玉だった。パンのお釣と合わせて、120円。

「パンが、もう一個買えるな」
「いや、そこは飲み物っショ?」
「部活前にカロリー摂取しときたいんだなよ」

田所がこの120円をどうするか迷っていると、輝が仕方ないな、と言って立ち上がる。自分の席に戻り、カバンを持ち、また田所達の元に戻ってくる。カバンからタンブラーを取りだし、田所の机にドン、と置いた。

「田所っちにあげる」
「これ、何だよ」
「麦茶だよ、普通の。今日委員会があるから、その時に飲もうと思って持ってきたの」
「・・・いいのか?」
「私は財布あるしね」

そう言ってにやりと笑う輝に感謝しながら、田所はタンブラーの蓋を開けて中身を飲んだ。冷たい麦茶で、喉が潤う。

「タンブラーは、委員会が終わったらそっちに取りに行くね。だから、一緒に帰ろう」
「おう・・・」
「ふふ、約束ね」

嬉しそうに微笑みながら、自分の席に戻っていく輝。田所は輝の後ろ姿を見ながら、明日はジュースでも奢ってやろうと思った。再び麦茶を飲むと、巻島がニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「な、んだよ」
「田所っち、いい女つかまえたっショ」
「バッ・・・!」
「そういや、前原、取りに来るっつってたけど、いいのか?また鳴子がうるさいショ」

あ、と声が出た。



-----
昼休み、120円


2014/10/28 宙


prev next

bkm
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -