「おっさん、マジで彼女おるんすか」

部室で帰り支度をしている田所に、同じく支度をしている鳴子が本日8回目の質問を投げ掛けた。絶対に厄介な事になる、と田所は確信していた為、どうにかこうにか誤魔化して鳴子の質問を避けてきたが、鳴子のしつこさに既にお手上げ状態だった。金城や巻島は輝の事を知っている為、鳴子の話題は気にしていないが、他の部員達がソワソワしていた。鳴子が田所に向かって「彼女」と言う度、手嶋や青八木が、ピクリと反応していることに、田所は気が付いていた。

「なぁ、おっさん!」
「白状した方がいいっショ、田所っち。じゃないと鳴子にいつまでも付きまとわれるぜ」
「巻島さんの言う通りや!吐くまで付きまとったる!」

大きな声でそう言いながらで迫ってくる鳴子。鳴子の後ろには期待した眼差しの手嶋と青八木。

「・・・あぁ、もう!わかった!いるよ、彼女!」
「マジすか!なんやねん、おっさんのくせに!」
「うるせぇ!」
「見たい!おっさんの彼女見たい!」

今度は「見たい」、と迫る鳴子。そう言うと思った、と田所は額に手を当てた。「写真とかないんすか?」と鳴子が言うと、手嶋も後ろから「俺も見たいです」と遠慮がちに言った。この流れはヤバイ、と田所は悟り、写真はないと言おうとした時に、コンコン、と部室の扉がノックされた。そして、扉の外から「入ってもいいですか」とマネージャーの声がして、金城が大丈夫だ、と答える。

「失礼します。あの、こちらの方が田所先輩に用があるって、ずっと待っていたので」
「やっほー」

そう言ってマネージャーの横から顔を出したのは、輝だった。噂をすればなんとやら、田所は深くため息をついた。

「あっ、田所っち!今ため息ついたでしょ、人がせっかく来てやったってのに」
「タイミングが悪いんだよ・・・!」
「タイミング?」
「今、丁度前原のこと話してたっショ」
「え?私?」

輝が「私の話って何?」と何故か嬉しそうな顔をして部室に入ろうとする。田所はすかさず自分の鞄を掴み、輝が部室に入る前に輝の肩を押して部室の外に押し出した。輝が「何するの」と文句を言うが、田所は無視をしながら部室の方を振り返り「お疲れ!」と言って輝を連れて早足で歩き出した。

「田所っち!」
「何で部室に来てんだよ!金城と巻島以外の部員もいるんだぞ!?」
「悪いの?」
「わ、悪・・・悪くは、ねぇ、か」
「そうでしょ!だいたい、田所っち、私の事、皆に隠してるんでしょ。慌てちゃってさ」
「・・・」

田所は何も言えず、ただ黙って輝の話を聞くしかできなかった。どうやら「彼女の存在」を隠しているのが気に食わないらしい。田所は、別に隠しているつもりはなかった。ただ、バレたら厄介な事になりそう、と思ったから黙ってはぐらかしていただけだ。それを輝に言うと、「厄介な事って何!浮気!?」とさらに機嫌が悪くなる。「あんな可愛いマネージャーもいるしね!」と、マネージャーがいたことにも、少々腹が立っているようだった。

「一年だよ、寒咲先輩の妹だ」
「え、そうなんだ!どうりであんなに可愛い訳だ。寒咲先輩かっこよかったし!」
「・・・わざわざ言う事でもねぇだろ、マネージャーは」
「私がやりたいって言った時は反対したじゃん」
「それは、だなぁ・・・また違うだろ、話がよ」

このままだと埒があかない、と田所は話題を変えることにした。そういえば、何で部室に、と輝に聞くと、輝はハッして制服のスカートのポケットに手を突っ込んだ。そして、田所に携帯電話を渡す。

「あ、俺の!」
「教室に忘れてたよ。わざわざ部活終わるまで待って届けたんだから、感謝してよ」

輝は「わざわざ」を強調しながら田所に言った。部員の誰かに預ければよかっただろ、と田所が言うと、輝は「そうだけど」と呟き、何故か赤くなった。

「た、たまには、一緒に帰りたいなって・・・放課後デート、的な?それに、友達としゃべってたし、丁度よかったっていうか、だから」
「・・・おう」
「・・・お、お礼は肉まんといちごオレで」

焦りながら恥ずかしそうに話題を変える輝に胸をときめかせつつ、田所は小さく返事をした。放課後デート、と言っても帰り道にコンビニに寄るくらいしか出来ない。手を繋ぐと嬉しそうな顔をして、コンビニのお菓子コーナーに俺を引っ張っていく。買いもしないお菓子を物色し、紙パックのいちごオレを手に取り、レジに向かう。

「肉まん・・・あ、やっぱりあんまんにしよう!」

店員にあんまん一つ、と輝が言い、値段を告げられ財布を取り出す。財布の中身は、

「おい、いちごオレかあんまんどっちかにしろ・・・120円しかねぇ」



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放課後デート、120円
「あんまん食べたいから私が出す・・・田所っちも食べる?」


2014/10/15 宙


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