06:平気

正確に言えば、咲々ちゃんが接する事のできる男は俺だけではない。多少びくついてはいるが、担任等の先生は問題なく接する。それに、何故かあの不思議チャンは平気らしい。

「不思議チャンだ」

「あ?何で真波が三年の廊下にいんだヨ」

廊下をこちらに手を振りながら真波が歩いてくる。普段なら男が自分の方に歩いてくるというだけで俺の後ろに避難する咲々ちゃんだが、真波が相手だとそんなことはしない。普通に、女子と接する時のように真波に手を振り返し、笑顔で真波を待っている。左手だけは、俺の制服を掴みながら。

「咲々先輩、荒北さん、こんにちは」

「こんなとこで何してんだ?」

「福富さんに今日の部活遅れますって、連絡に」

「遅刻魔のくせに、珍しいじゃねぇか」

「今回は最初から遅れる理由がわかってたんで」

居残りで山のようなプリントやらないといけなくて、と笑う真波に咲々ちゃんが「大変だね」とクスクス笑う。普段男の前じゃ滅多に笑ったりしないのに、何故か真波には好意的だ。ついこの間会ったばかりの一年より、同じ三年の福ちゃんや東堂の方が過ごした時間は長いはずだが、未だに拒否反応を示す。慣れ、というわけではないらしい。だとしたら、真波のことは何故なのか。

「不思議チャン、サボってばかりだからそうなるんだよ」

「それにしても多すぎるんですよー、早く自転車乗りたいのに」

「手伝ってあげようか?」

「えっ、いいんで・・・ってぇ!」

「自力でやれ、ボケナス!」

真波の頭を思い切り叩く。頭を押さえながら真波は「えー」と文句を言う。咲々ちゃんがわたわたとしながら俺と真波を交互に見ながら真波に「大丈夫?」と声をかけていた。後輩だからか、咲々ちゃんは真波には甘い。

「咲々先輩とならあのプリントも頑張れそうなのになぁ」

「咲々チャンに迷惑かけんな」

「迷惑じゃないよ?私が言い出した事だし…」

「ほら、咲々先輩もこう言ってますし!じゃあ、放課後!迎えに来ますね!」

「なっ、真波、待てコラァ!」

真波は咲々ちゃんに言うだけ言って、手を振りながら廊下を走っていった。同時に、予鈴が鳴る。咲々ちゃんはニコニコしながら真波を見送り、教室に戻った。俺はため息をつきながら咲々ちゃんの後に続いた。

「いいのォ?あんな約束して」

「え?」

「迎えに来るって言ってたけど、一年の教室でやんの?」

「そうかな」

「・・・真波以外にも教室に男はいるヨォ?」

そう言うと咲々ちゃんは今気付いた、というふうに俺の顔を見ながら固まった。それからどうしよう、と俺に少し震えた声で言う。

「約束したんだから仕方ないんじゃァないの」

「うっ、そ、そうだよね・・・不思議チャンが困るし、荒北君は部活だし」

「・・・」

「わ、私、頑張るね!」

ぐっと拳を握る咲々ちゃんに「そう」とだけ言って俺は前を向いた。


06:平気



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2014/06/24 宙


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