05:油断大敵

「好川ちゃんではないか!」

「と、東堂君」

私が職員室から出てくると、前の方から手を挙げて東堂君が歩いてくる。男の人は苦手だ。東堂君は、もっと苦手だ。性格がナルシストだとかそういうことではなくて、私は彼のテンションについていけないのだ。今も私が黙っている間も、彼はずっと話している。今日は荒北と一緒じゃないのか、とか、職員室に用事だったのか、とか。

「・・・ん?好川ちゃん」

「へ・・・」

「あまりじっと見たことがなかったから気付かなかったが・・・」

「ひ、」

東堂君がずい、と私に近付く。一歩後ずさると、今度は東堂君の手が伸びてくる。カチャ、と音がして私の眼鏡が外された。

「やはりな!好川ちゃん、眼鏡は外したほうが、」

「い、いやぁっ!」

「どこに行くのだ、好川ちゃん!まだ話の途中だぞ!」

東堂君の手から眼鏡を奪い返し、それを走りながらかけて、東堂君から逃げる。好川ちゃん、と東堂君の声がする。振り向くと、追いかけてきていた。早く教室に、荒北君のところまで、と心の中で「荒北君」と何度も呼びながら、教室に向かう。教室が見え、扉を開けて「荒北君!」と呼ぶと、机で寝ていた荒北君が勢いよく体を起こした。

「好川ちゃん!荒北!」

私が荒北君の後ろに隠れると同時に、東堂君が教室に入る。私は荒北君の後ろにしゃがんだまま、東堂君と目を合わせないように顔を逸らす。二人が話しているのを聞きながら、手に持っていたプリントのことを思い出した。走ってきたせいで少しよれてしまった。荒北君の制服を引っ張り、説明をしながらプリントを渡す。「ありがとな」という荒北君のお礼の言葉が嬉しかった。普段私がお礼を言ってばかりだから、荒北君からの「ありがとう」は特別嬉しかったりする。

「大体、いつもお前に会うと咲々チャン泣いてんだろ。距離とか近いんだヨ、咲々チャンからは最低1メートルは離れてろ」

「遠いではないか!せっかく好川ちゃんの美しさに気付いたというのに」

なぁ、好川ちゃん、と私に笑顔を向ける東堂君。荒北君が「見んな」と言いながら私を隠してくれる。

「さっき好川ちゃんの眼鏡をはずしてみたら、意外にも美しくてな!」

「・・・」

「肌も綺麗だし、好川ちゃんは眼鏡を外したほうが、美しくて可愛いぞ!」

「いや、あのっ、そんなことないから・・・本当に、東堂君」

「謙遜するな!自信を持っていいのだぞ、この俺が言っているのだからな!」

東堂君がそう言うと同時に、予鈴がなった。東堂君は手を振って教室から出ていく。出ていくのを確認して、私は荒北君にお礼を言う。荒北君はこちらを振り向き、私の前髪をくしゃ、とかきあげ、顔を近付ける。

「油断し過ぎじゃナァイ?」

「え」

「眼鏡外されたとか、東堂に気ィ許した?」

「気を許すのは、無理だよ。眼鏡の事は、急に近づかれて、動けなかったから・・・」

荒北君がため息をつきながら私の前髪を下ろし、指先で触れて直す。

「荒北君以外は、ダメ・・・」

「・・・ふぅん」


05:油断大敵



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2014/06/23 宙


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