04:笑顔

机に突っ伏しながら、顔を左に向けて誰もいない隣の席を見る。今、咲々ちゃんは、隣にいない。職員室に行く、と俺に言って数分前に教室を出ていった。わざわざ報告しなくてもいい、と思ったが、黙って隣からいなくなってしまえば、多分俺は心配してしまうだろう。誰かに絡まれてないかとか、泣かされてないかとか。そんな柄にもないことを思ってしまうのは、咲々ちゃんがよく泣くせいだ。普段眼鏡をかけているせいかよくわからないが、咲々ちゃんの容姿は人並み以上だ。そのせいなのか、知らない男子に囲まれたとか、話しかけられたとかで、よく泣いて帰ってくる。男子が苦手な咲々ちゃんからすれば、それは泣くほど最悪の出来事なのだから。

「荒北君っ!荒北君!」

そうだ、まさにこんな感じで。俺を呼び泣きながら教室に戻ってきた咲々ちゃんは、俺の近くに来ると教室のドアを指差して「助けて!」と言い、俺の後ろに隠れた。何だ、と理由を聞こうとした時に、教室のドアを勢いよく開き、東堂が教室に入ってきた。理由はもう聞かなくてもわかる。

「好川ちゃん!荒北!」

「てめ、東堂・・・咲々チャン泣かせてんじゃねぇ」

「む、泣く?俺はただ話しかけただけだが」

「しつこく話しかけたんだろうが!わざわざ教室にまで追って来やがって・・・」

「好川ちゃんが話の途中で歩き出すからだな、」

「逃げてんだよ、わかれよ」

咲々ちゃんは俺の後ろでしゃがみこんだまま。東堂が俺越しに咲々ちゃんを覗き込み、笑う。あぁ、またお得意のナルシストか。

「フッ・・・照れているのだな、好川ちゃん!俺があまりにも美しくて!」

「うっぜ」

「うざくはないな!」

「荒北君」

しゃがんでいる咲々ちゃんが俺の制服を引っ張る。何、と振り返ると咲々ちゃんが手に持っていたのか、一枚のプリントを出して俺に見せた。プリントの一番上には進路調査と書かれていた。その文字を見て、俺はゲッと声を出す。

「職員室に言った時に、先生が・・・荒北君まだだって」

「あー・・・そういや出してねぇ、忘れてた」

「これ、一応貰ってきたの。今日中に出してって言ってたから、持ってなかったら困るかなって」

「ん、ありがとな」

咲々ちゃんにお礼を言ってプリントを受けとると、咲々ちゃんは嬉しそうに笑った。東堂がそれを見て、「おぉ」と声を出す。

「久しぶりに好川ちゃんの笑顔を見たな。大抵怖がっているか泣いている顔しか見ないからな」

「・・・咲々チャンはおめーが嫌いだからな」

「なっ!それはいかんな!好川ちゃん、何故俺を嫌うのだ!」

「そういうとこだろ」

「何!?」

東堂がギャーギャーと騒ぐなか、咲々ちゃんが小さな声で「嫌いじゃないよ」と呟いた。


04:笑顔



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2014/06/18 宙


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