02:放課後

「あ、ああ荒北君っ!」

助けて、と私から少し遠くの距離にいる荒北君に向かって視線を向ける。荒北君はこちらに気付き、隣を歩いていた福富君を置いて走ってくる。早く、早く来て荒北君。

「新開!咲々チャンから離れろっ!」

「ん?何だ靖友、嫉妬は格好悪いぞ」

「ちっげぇヨ、咲々チャンが泣いちゃうだろォ?」

荒北君が私に話しかけてきた男子を押し退け「大丈夫か?」と顔を覗き込んでくる。荒北君、と呼んだ声は情けないことに震えている。荒北君の後ろから、先程の人が顔を出し思わず身を縮こまらせた。荒北君が振り返り、その人をまた押し退ける。

「何だ、靖友。俺はお前の彼女がいたからもうすぐ来るって教えてあげてただけだ」

「はいはい、ドーモ。けど、彼女じゃねぇし、咲々チャンは男が苦手だって教えただろうが」

「あぁ、そうだった。悪いな、咲々」

「はいっ・・・」

「サラッと呼び捨てにしてんじゃねぇヨ」

新開君、だったっけ。荒北君経由で自転車部の部員とは何となく顔見知りになっている。とはいえ、極力会わないようにしているし、接点はないのであまり話したことはなかった。名前すらうろ覚え。けれど新開君はちゃんと私の事を覚えていてくれたらしく、私を見つけるやいなや近付いて来て話しかけてくれた。「荒北ならもうすぐ来る」と親切に教えてくれたのに、私は怖がって頷く事しか出来なかったけれど。

「彼女じゃなかったか?よく一緒にいるからそうなのかと」

「咲々チャンは、何だ、そのー・・・」

「・・・荒北、好川が固まっているが、大丈夫か」

「あ?ゲッ、ちょっと咲々チャァン!?」

荒北君がいるとはいえ、新開君に福富君。このサンドは怖すぎる。荒北君のジャージをぎゅっと握って、少しだけ引き寄せる。少しでも近くに荒北君がいてくれれば、安心出来るから。

「・・・あー、着替えてくっから、もう少し待ってろ。そこ動くなヨ」

「・・・ん」

「やっぱり彼女なんじゃないか」

「っせ!福チャンと新開は咲々チャンに3・・・いや、5メートル以上近づくな!あとあんまり見るんじゃねぇぞ、怖がるからァ!」

荒北君は二人にそう言って走って部室に向かった。福富君と新開君が私から少し離れる。さすがに5メートルは離れていない気がするが、福富君は荒北君に言われた通り私を見ないようにしているらしい。不器用なのか、それがあまりにも不自然だった。新開君は福富君に話しかけながら私の方を見て、手を振ってくる。振り返したほうがいいんだろうか。・・・やっぱり止めよう。荒北君が戻ってくるまで大人しくしてるほうがいい。

「咲々チャン」

「荒北君」

「帰ろうぜ。じゃあな、福チャン、新開」

着替えを済ませ部室から戻ってきた荒北君が福富君と新開君に軽く手を振って、先に歩き出す。新開君は首を傾げながら、それでも釣られたのか手を振っていた。私は二人に向かって小さくお辞儀をして、荒北君の後を追った。

「つーか、教室で待ってたほうがよかったんじゃナァイ?」

「だって、教室に、男子がたまってて」

「・・・あー、じゃあ仕方ねぇか」


02:放課後



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2014/06/11 宙


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