end:エピローグ

あの日、授業に遅れてしまって急いで教室に向かっている時、廊下の曲がり角で柄の悪い二人組の男子生徒とぶつかった。それも両手で持っていた飲みかけの紙パックを挟んで。案の定ストローからジュースが吹き出し、互いの制服を濡らした。頭を下げたまま謝っていると、男子生徒は何やら大きな声で騒ぎだして、私の肩を強く押した。謝りながら、怖くてずっと自分の爪先を見ていた。いきなり襟ぐりを掴まれて少し踵が浮いていた。怖い、怖い、と心の中で叫んでいたら、誰かの声が聞こえて男子生徒の目が私から逸れた。私がぶつかった男子生徒と同じように柄の悪い男子生徒。イライラした様子でこちらに近づき、私の襟ぐりを掴む男子生徒を殴る。男子生徒が勢い良く廊下に倒れ、私は廊下にへたりこんで殴った方の男子生徒を見上げ、同じクラスの男子だ、と思い出していた。彼はもう一人の男子生徒のほうも問答無用で殴り、そのまま踵を返し、廊下から裏門の方に歩いていった。騒ぎを聞き付けた生徒か先生の声がして、私は慌てて立ち上がり、彼を追った。すでに、怖い、とは、思っていなかった。

「付き合うって、意味わかってんのォ?咲々ちゃん」

「い、意味?」

「そう」

好き、というお互いの気持ちを知った後、私と荒北君で話し合いが行われた。場所は皆が練習に行き、誰もいない自転車競技部の部室。広い部室で二人きりというのは、緊張してしまって落ち着かない。キョロキョロする私にこっちを見ろ、と荒北君が注意しながら話し合いが進んでいく。

「好き同士が絶対付き合ってるって訳じゃねぇし」

「でも新開君がこれで二人は恋人だなって」

「新開の言ったことは忘れろ」

「でも、嬉しかったのに」

そう言うと荒北君は言葉に詰まり、俺もだけど、と小さい声で言った。けれど、荒北君は「でも一回考えて!」と私に力強く言う。先程から同じことの繰り返しな気がする。荒北君は私が恋人じゃ嫌なのか、と聞くとそんなわけない、と首を振る。じゃあ恋人でいい、と言うと考えて、の繰り返し。荒北君が私に何を求めているのかわからない。

「荒北君・・・私、荒北君のこと、好きなんだよ」

「うん、わかってるヨ・・・俺も咲々ちゃん好きだし」

「何が、いけないの?」

「だぁから・・・」

荒北君はガシガシと頭をかき、それから私をじっと見つめる。どうしたの、と言えばため息をついて、私に手を伸ばす。荒北君と私の手が絡まる。恋人繋ぎだ、と嬉しくなって荒北君に照れちゃうね、と言うとそうだね、とぶっきらぼうに返された。

「今はこうやって手繋いだり、休みの日にどっか行ったりして、二人でいるだけで充分だヨォ」

「うん」

「でもさぁ、なんつーか・・・」

荒北君の空いた手が私の頬を撫でる。また、まつげでもついてたかな、と思っていると、荒北君の顔がどんどん近づいてきて、荒北君しか見えなくなってしまい、恥ずかしさに耐えきれなくなってきつく目をつむる。そして、一瞬、唇に何かが触れた。何か、なんて考えなくても目を開ければすぐに答えは出る。恐る恐る目を開けると、真っ赤な顔した荒北君と目が合った。

「・・・俺も男だから、咲々ちゃんにそういうつもりがなくても、咲々ちゃんとこういうことがしてぇの。わかったァ?」

そう言って荒北君が私から距離を取り、「付き合うってこういうことなんだヨ」と呟いた。

「荒北君」

「なぁに?」

「・・・わ、わからなかったから、もう一回、ていうのは・・・なし?」

「・・・あー、あり、かな」


end:エピローグ


-----
ありがとうございました!


2014/09/25 宙


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -