15:言葉にして

「やぁ、咲々」

廊下でバッタリ出くわしたのは、荒北君と同じ自転車部の新開君。にっこりと笑い、後ろに後ずさる私に近づいてくる。一向に距離が縮まらない。どうしよう、と思っているうちに、危ないぞ、と言われ手を引かれた。私の後ろから生徒が来ていたらしい。すれ違った男子生徒にビクリと肩を震わせ、新開君に掴まれた腕に気付いてまた震える。

「あ、悪いな」

「あの、距離が、ちか」

「そうか?でもあんまり離れると話が出来ないだろ?」

「話?」

私が聞き返すと、新開君は靖友の事、とウインクをした。咲々はどう思ってるんだ、と新開君に聞かれ、どう、とはどういう事だろう、とよくわからず首を傾げた。

「じゃあ、単刀直入に聞くよ。靖友が好き?」

「好き?」

「あぁ、何て言うんだろうな、えーと・・・恋愛的な目で見て」

恋愛、と言われて、急に恥ずかしくなる。好きって、そっちか、と気づいて私は顔が熱くなる。新開君は真っ赤だな、と笑い、やっぱりそうか、と呟いた。

「考えたことなかった?」

「う、うん」

「じゃあ、考えた方がいい」

新開君がそう言う。戸惑っていると、新開君は簡単だよ、と微笑んで、おめさんの気持ちと靖友の気持ちを考えればいい、と言った。私と荒北君の気持ち、と言われても、やはりよくわからない。どう考えたらいいのかわからない。

「おめさんが靖友だけ平気なのは、何でだ?」

「・・・ふ、不思議ちゃんも、平気」

「あぁ、そうだったな。じゃあ、真波は何で?」

「あんまり、男の子って感じがしないからかな・・・」

そう言うと、真波が傷つきそうだな、と新開君が言った。不思議ちゃんは、最初から怖い気がしなかった。ふんわりとした雰囲気だからか、接しやすかった。だから荒北君も言っていた、不思議ちゃんが私にも定着した。

「靖友は?」

「・・・」

「わからない?」

無言で頷く。初めてクラスで荒北君を見た時は、怖そうな人がいる、と思った。でも初めて話した時、怖くなかった。助けてくれたから、いい人だと思った。うるさいと言われても、邪魔だと言われても、怖くなかった。

「そのうち、荒北君は、そんなこと言わなくなって・・・」

「盾になった」

「盾?」

「靖友が言ってたぜ、咲々の盾だって」

「そんなつもりは・・・私は、荒北君と居たいから」

「わかってる。でも、おめさんが自分の気持ちに気付かねぇと、靖友に伝わらないぜ」

自分の気持ち。新開君にそう言われる度に胸がモヤモヤする。私の荒北君への好き。思い出して、考えて、形を成してない好きが、形を成していく。

「そうなのかな」

「ん?」

「・・・この前も、思った。荒北君に触れて欲しいとか、ずっと一緒に居たいとか」

「言葉に出したらいいんじゃないか?」

新開君に言われ、私は歩き出す。後ろから新開君がどこに行くんだ、と呼び止めている。私は振り向かず、教室に入り、荒北君の席に向かった。荒北君は私を見るとおかえり、と言って持っていたシャーペンをくるりと回す。今日当たるからここ教えて、と荒北君がノートを指差した。

「荒北君」

「んー?」

「好き」

「うん・・・ん?」

荒北君がノートから顔を上げて私を見る。途端に恥ずかしくなってしまうけれど、何だか胸が暖かい。言葉にすると、曖昧だった気持ちが確信に変わっていく。私、荒北君が好きなんだ。パズルのピースがはまったように、すっきりしている。何だか、すごく嬉しい。

「好き」

もう一度言うと、荒北君が顔を赤くする。咲々、と私を呼ぶ声がして振り向くと新開君が教室に入っていた。荒北君が新開君を見て、低い声で何か呟いた。

「テメェの仕業か・・・新開ッ!」

「ヤベッ!」


15:言葉にして


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ちょっと間が空いたので手探りで書いてます…


2014/09/12 宙


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