14:盾のまま

「荒北!どうだったのだ、週末のデートは!」

東堂が顔を輝かせながら俺に問いかける。別に、と言って東堂から顔を背けた。何だそれは、と東堂がぐい、と近づいてくる。いい映画だっただろう、映画の後はどうした、手は繋いだか、雨は残念だったなぁ、と一人で喋り続けている。うざい、と東堂にいってやるといつもの言葉が帰ってくる。小さく舌打ちをして、東堂を無視するように自分の机に突っ伏した。

「・・・さては荒北、失敗したな?」

「・・・」

「そうかそうか!それは仕方のないことだよ、荒北!お前は女子とのデートに慣れていないからなぁ、もしかして急ぎすぎたか?駄目だぞ、女子はゆっくり・・・」

「っだぁー!もう、うるせぇ!うぜぇ!」

喋り続ける東堂の頭を思い切り叩く。せっかく慰めてやってるのに、と東堂が怒り出した。やり返そうとする東堂を押さえつけていると、教室に新開が入ってくる。俺と東堂の間に入り、食う?とカロリーバーを差し出された。

「いらねぇ・・・」

「そう?あ、今咲々と話してきたよ」

「咲々ちゃんと?」

「あぁ、進路の話。丁度俺も職員室に用事があってさ、進学先が、聞こえてな」

「そういや、職員室行くって・・・」

確か、咲々ちゃんは分厚い資料を持って教室を出ていった。もしかしたら大学の資料だったのかもしれない。卒業後の進路は、知らなかった。聞かなくても、頭の良い咲々ちゃんのことだから、何となく進学するんだろうとは思っていたけど。新開が「明早大だって」と言った。東堂がすぐに「お前と違うではないか」と反応する。

「・・・っせ」

「てっきり、同じ大学かと思っていたが」

「あのなぁ、前から言ってっけど、俺と咲々ちゃんはただの友達。進路が別々になるなんざ、普通だろォ?」

「まぁ・・・あ、咲々」

咲々ちゃんが教室に戻って来た。東堂と新開に気付き、一瞬肩を跳ねらせ足を止める。新開が咲々ちゃんに手を振り、咲々ちゃんは戸惑いながら振り返していた。

「荒北、やはりデートは失敗だな?好川ちゃんはお前を避けてこちらに来ないのではないか?」

「避けてんのはテメーだヨ」

「でも、靖友」

「あ?」

何かあったんじゃないのか、と新開がこちらを振り向いて聞く。咲々ちゃんは友達に話しかけられていた。何かあった訳じゃない。映画を見て、休日を楽しんだだけ。ただの友達として。

「咲々ちゃんはさぁ、俺を信頼しきってんだ」

「良い事ではないか」

「そうかもねェ」

普通、頬なんか撫でたらちょっとは気にするだろ。もしかしたら、って。あんな映画を見た後で、そんなことをされたら。咲々ちゃんが鈍感ってだけじゃない。俺と咲々ちゃんのだから、何をされても疑わない。俺にはそういう感情は生まれないのだと、確信した。間にあるのは友情だけで、それ以上は、望めない。

「あ、荒北君!」

「咲々ちゃんが来る、お前ら教室戻れ」

「・・・靖友、」

「言ったろ?俺は盾なんだヨ」

もうやめにしよう。うだうだ考えるのも性に合わない。女々しすぎて気持ち悪い。

「おら!咲々ちゃんがいつまでたっても席につけねぇだろ!どっか行け!」

「あ、あの、ちょっと離れて貰えれば、その」

東堂が言うとおり、信頼されているのは良い事だ。このままでいい。ただの友達として側にいよう。


14:盾のまま


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2014/08/22 宙


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