13:映画館

「もしもし?着いたヨォ」

連絡を終えて携帯電話をポケットにしまう。家の前で、彼女が出てくるのを待った。昨日の電話で、寮まで行く、と言っていた咲々ちゃんの申し出は断って、寮からほんの数分の距離にある咲々ちゃんの家まで迎えに来た。着いた、という連絡の電話をしてすぐに、玄関から咲々ちゃんが顔を出す。俺と目が合うと、おはよう、と言って微笑んだ。それから、水玉の傘を開く。今日は、生憎の雨だった。

「雨、降っちゃったね」

「あぁ・・・てるてる坊主、効果なかったな」

昨日の時点で、天気予報は雨と言っていた。咲々ちゃんはてるてる坊主作ったよ、と窓に吊るされた二つのてるてる坊主の写真をメールに添付してくれた。明日は晴れたらいいな、と書いてあったのだが、今朝起きてみると、しとしとと雨が降っていた。きっとガッカリしているだろう、と思っていたが、やはりその通りで、咲々ちゃんは空を見上げため息をつく。

「まぁ、映画は室内だしィ?問題ないんじゃねぇの」

「そうだけど・・・やっぱり私雨女なのかも」

「雨女?」

咲々ちゃんが頷く。出かける時はいつも雨が降る、と頬を膨らませ、空を睨んだ。今度はもっといっぱいてるてる坊主作るね、と拳を握り俺に言う。今度、という言葉にえ、と声を漏らす。何?と首を傾げる咲々ちゃんは、やはり新開の言う通り小悪魔かもしれない。

「映画、楽しみだね」

「ん、あぁ」

映画館はカップルで溢れていた。こんなベタな恋愛だ、当たり前といえば当たり前か。咲々ちゃんがキョロキョロと周りを見渡す。もしかしたら、同じ事を思っているのかもしれない。席に座り、映画が始まるまで世間話をしながら待つ。劇場が暗くなり、公開予定の映画の宣伝が入り、本編が始まる。不治の病のヒロイン、懸命に支える主人公、衝撃のラストに、俺は涙しなかった。途中、隣の咲々ちゃんを見ると、真剣に真っ直ぐ映画を見ていた。主人公とヒロインが幸せそうにしている場面では微笑み、逆にすれ違い喧嘩しているような場面では少し悲しそうに、表情を変えながら。

「面白かったァ?」

「うん。定番だけど、感動しちゃった」

「そっか」

それならよかった、と言うと咲々ちゃんは誘ってくれてありがとう、と笑う。映画館を出ると、雨は止んでいた。咲々ちゃんが嬉しそうに空を見上げ、指を指す。

「虹だ」

見て、と俺のほうを振り向く。雨が太陽の光に反射して、キラキラと輝く。咲々ちゃんの頬に、手を伸ばした。

「・・・」

「・・・荒北君?」

「まつげ、ついてるヨ」

「ん・・・ありがとう」

何も疑わない咲々ちゃんに嘘をついて、頬を撫で手を離した。


13:映画館



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2014/08/12 宙


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