10:不意に

「荒北、好川とはどうだ」

「・・・ハァ?」

隣のクラスと合同の体育の授業中、福ちゃんがぎこちなく俺に話しかける。唐突な言葉に思わず聞き返す。福ちゃんはもう一度、同じ言葉を繰り返した。ちら、と女子がバレーをしている体育館の半面を見る。咲々ちゃんははじっこの方で友達と談笑していた。

「この間から何!?福ちゃんこーゆー話あんましねぇだろ?」

「いや・・・お前が、この間調子が良くないようだったから」

「主将として?らしくねぇなァ」

大丈夫だから、と福ちゃんに言うと、福ちゃんはそうか、と頷いた。少し考えるような素振りを見せ、それからわざとらしく手をぽん、と打った。

「そういえば、映画のチケットを持っている。好川と行ってきたらどうだ」

「おい、福チャァン・・・それ、誰かに言わされてるだろ・・・」

「む、何故だ」

「ちょうど良く映画のチケットなんか持ってるわけねぇだろ!チャリの事しか頭にねぇくせに!」

福ちゃんを問い詰めている時、女子の甲高い悲鳴が聞こえた。うるせぇ、と女子のほうに顔を向けると、何やらざわざわと生徒達が集まっていた。福ちゃんは一先ず置いといて、何があったんだ、と集まっていたクラスメイトに話しかける。

「好川さん!」

女子が倒れた、とクラスメイトに聞き、同時に聞こえてきた名前に振り向く。また、名前が聞こえる。集まっていた生徒をかき分け、騒ぎの中心に行くと、咲々ちゃんが友達らしい女子に抱えられ、倒れていた。

「どけ!」

「荒北っ・・・!」

「何があったんだ、何で咲々ちゃんが倒れてる!?」

「ボールが、当たって・・・その拍子に壁に頭を打って」

「チッ・・・ボーッとしてっからァ!」

咲々ちゃんを抱えあげ、保健室へ急ぐ。こういう時に限って、授業に先生はいないし、おまけに保健医もいない。とりあえずベッドに寝かせ、冷やすものを探す。どこに何があるのか全くわからない。段々めんどくさくなり、仕方ない、とタオルを濡らし、咲々ちゃんの額に当てた。よくよく考えたら、どこにボールが当たったのかも知らない。額でいいのか、と思いながらタオルを外し、手で前髪を上げた。少し、左側の生え際が赤くなっている。ここにボールが当たったのだろう。

「ん・・・」

「咲々ちゃん?」

「・・・荒北君?」

「気付いた?大丈夫かよ」

「えっと、保健室?」

俺が頷くと、咲々ちゃんはそっか、と言いながら体を起こす。頭が痛むのか、先ほど俺が確認した場所を押さえ、顔をしかめた。痛いかと聞くと、少し、と言って、でも大丈夫だと笑った。

「ボール当たって、壁にもぶつけるとか・・・漫画かよ」

「気絶するなんて・・・自分でもびっくりしちゃった。ちょっと朝から貧血気味でフラフラしてたせいもあるかも」

「そんなんで体育出んなよ」

「ごめんなさい」

タオルを咲々ちゃんの頬に当ててやる。冷たい、と言いながらタオルを受け取り、腫れている場所に当てた。壁にぶつけた場所はどこなんだ、と咲々ちゃんの頭に手をやり、撫でる。

「荒北君?」

「・・・痛くない?」

「う、うん」

「大丈夫そうだネ」

「・・・あ」

「ん?」

手を離すと、咲々ちゃんが俺を見る。少し顔を赤くして、あのね、と話す。

「もう少し、撫でて欲しい・・・」

「・・・」

「ダメ?」

「・・・別にィ」

再び咲々ちゃんの頭に手を置く。撫でると、咲々ちゃんが嬉しそうに笑う。ぎゅっ、と心臓を掴まれた気がする。

「あー・・・そうだ、福ちゃんが映画のチケットくれるっつーんだけど、一緒に行く?」

「・・・行くっ」


10:不意に



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2014/07/29 宙


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