09:自覚なし

「咲々先輩、迎えに来ました!」

不思議チャンが両手にどっさりプリントを持って教室に入ってくる。私はいってきます、と荒北君に告げ、拳を握りしめて不思議チャンと教室を出た。頑張る、と言ったのはいいが、やはり不安だった。荒北君に心配かけないように、隠したつもりだけど、ばれていないだろうか。前に荒北君に咲々ちゃんは嘘が下手だ、と言われた。顔に出る、と。

「咲々先輩?」

「えっ?」

「大丈夫ですか?なんか、心配そうな顔してますよ」

「え、そうかな・・・うわぁ、やっぱりそうかな・・・」

「荒北さんがいないからですか?」

不思議チャンが笑いながら首を傾げる。そういう訳じゃないよ、と強がってみたものの、不思議チャンはそうかなぁ、と納得していないようだった。今から一年生の教室に行くのか、と思うと、確かに不安だった。不思議チャン以外にも教室には人が、男の人がいる。当たり前の事なのに、何で荒北君に言われるまで気づかなかったのか。思わずため息がもれる。

「咲々先輩、めんどくさくなっちゃいました?」

「ううん、違うの。不思議チャンのクラスに行くのが、怖くて・・・ほら、不思議ちゃん以外にも男の子がいるでしょ?」

「あ、大丈夫ですよ。心配しなくても」

教室には行きませんから、と不思議チャンが笑う。首を傾げると不思議チャンはこっち、と一年生の教室がある方向とは反対の階段を上る。こっちは、確か、

「ちょっと遠くなっちゃうけど、図書館です」

「図書館」

「はい、それなら、二人きりでしょ?」

不思議チャンの言う通り、図書館は静かで、ほとんど人がいなかった。こっちです、と不思議チャンに言われるががまま、窓際の席に座る。どさり、と大量のプリントが机に置かれる。疲れた、と不思議チャンが溢した。

「本当にいっぱいだね、プリント」

「容赦ないですよね、はぁ、早く山、行きたかったのに」

「じゃあ、早く終わらせよっか」

めんどくさがりながら、不思議チャンはプリントを手に取る。他愛ない話をしながらも、着々とプリントをこなしていく。たまに不思議チャンがわからないところを教えながら、私は窓の外を見ていた。

「見えますか?」

「え?」

「自転車部、そこから見えるんです」

不思議チャンがシャーペンで窓を指し、笑う。少し身を乗り出して見てみると、確かに見えた。誰だかわからないけれど、自転車部のジャージを来ている。見えた、と不思議チャンに言うと、よかった、と言ってプリントに目を戻した。

「たまたま、ここで昼寝してた時に気付いたんです。だから、咲々先輩に教えたら、喜ぶかなって」

「喜ぶ?」

「荒北さんが、見えるかもしれないでしょ?」

「そっか、そうだね!ありがとう、不思議チャン」

お礼を言うと、不思議チャンは面白そうに笑った。先輩可愛い、と言われ、訳がわからず何で、と聞くと、素直過ぎます、とまた笑った。

「大変だなぁ、荒北さん」

「え?」

「何でもないです・・・えぇーっと、咲々先輩、この問題教えて下さい」

「これは・・・」

大量にあったプリントも少なくなり、ようやく終わりが見えてきた。時計を見ると、図書館に来てから40分程経っていた。意外と、早く終わった。これなら、不思議チャンも部活に出れそうだ。ホッとして窓を見ると、自転車を引いている荒北君が見えた。走りに行くのかな、と目で追っていく。せっかくだから約束はしていないけれど、ここで部活が終わるのを待っていよう。見てた、って言ったら、びっくりするかな。


09:自覚無し



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2014/07/26 宙


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