08:番外編 靖友が、イライラしているのはすぐにわかった。後輩が近寄れない程のオーラ。同じ三年の部員ですら声をかけられない程眉間にシワが寄り、完全に元ヤン顔だ。ローラーを全力で回し、周りの声さえ聞こえていない。そんな中、寿一だけが靖友に声をかける。オーバーワークだ、と靖友に告げ、ボトルを渡す。 「ずいぶん不機嫌だな、荒北は」 「あぁ、どうしたんだろうな」 「・・・もしかして、好川ちゃんのことか」 部活に行く時に真波と一緒にいる好川ちゃんを見た、と尽八が言う。好川咲々は、靖友と同じクラスの女の子だ。靖友にとって特別な女の子、と言えるだろう。彼女か、と言えば靖友は否定するが、どうみても彼女にしか見えない。靖友は咲々を大切にしているように見えるし、咲々のほうも靖友だけには俺たちと違って普通に接している。というよりも、好意があるように見える。それなのに、なぜ靖友はそういうのじゃない、と否定するのだろうか。 「靖友が不機嫌なのは、真波にヤキモチ妬いてるからかな」 「知らんよ。しかし、荒北は好川ちゃんが好きなのだろう?付き合ってしまえばいいものを」 「そうだよなぁ」 「まぁ、好川ちゃんにその気がないのなら、仕方ないがな!」 「両想いだと思うけどな」 俺がそう言うと、尽八がそうかな、と笑う。何で、と聞くと尽八は得意気に乙女の気持ちは複雑なのだ、と腕を組んだ。尽八の頭に軽くチョップを入れた。 「何をする、新開!」 「いや・・・腹が立って」 「何故だ!さては俺の美形に嫉妬・・・」 「おい、寿一」 尽八は無視して、寿一に話しかける。後ろから無視をするなと尽八が着いてきていた。靖友は、と聞くと部室だ、と寿一が言った。丁度良い、と俺は寿一に話を持ちかける。 「靖友に話を聞いてきたらどうだ?」 「何の話をだ」 「フク、決まってるだろう。恋愛相談だ!」 「れ、恋愛・・・?」 尽八の言葉に寿一が戸惑う。どういう事だ、と寿一が目で俺に聞く。寿一に靖友と咲々について説明する。咲々の事を知っているとは言え、寿一はこの手の話には鈍感過ぎる。好きの説明も付けなければいけないほどだ。説明し終えた今も、寿一の表情を見るといまいちわかっていないようだった。 「とにかく、靖友は咲々の事で、悩んでるんだ」 「そうか」 「俺や尽八が行くと、靖友に怒られそうだからな。寿一なら靖友も素直に話すだろう」 「わかった」 寿一がそう言いながら頷き、部室に向かっていった。若干心配だが、俺たちが行くよりは良いだろう。 「フクの恋愛相談か、貴重だな」 「ハハッ、確かに」 「・・・先程の続きだが」 「ん?何か言ってたっけ?」 乙女の気持ちは複雑という話だ、と尽八が言う。もういいよ、とポケットからパワーバーを取りだし一口食べる。尽八はいいから聞け、と勝手に話始めた。 「好川ちゃんは自分の気持ちに気付いてないのではないか?」 「・・・有り得なくは、ないな」 「好川ちゃんは男が極端に苦手だ。きっと、今まで恋をしたことがないと思う」 「だから、靖友に対する気持ちが恋だってわからないってわけか?」 尽八が頷く。本当にそうだとしたら、靖友に同情する。両想いなのに、片方は自覚してないだなんて。 「フッ・・・これは、協力してやらねばならんな!」 08:番外編 応援団 ----- よけいなお世話である。 2014/07/25 宙 |