職員室から教室に戻ると、東峰君が一人席に座っていた。放課後になってからもうずいぶん時間が経っている。東峰君は何をするでもなく、ただぼんやりと座っていた。私が声をかけると、東峰君はビクッと肩を震わせこちらを向き、北見さん、と私の名前を呼んだ。

「何してるの」

「あ・・・日直で、日誌を」

「書き終わった?」

「うん・・・」

東峰君の机の上には日誌が閉じたまま置いてあった。きっとずいぶん前に書き終わっていたはずだ。なのに提出もせず、彼はずっと教室にいた。どうしたの、と聞くことが出来ず、私は黙ったまま東峰君の前に座った。

「北見さんは?また先生の手伝い?」

「ううん、社会のレポート、放課後までだったでしょ?私すっかり忘れてて・・・今まで図書室で資料とにらめっこだったの」

「終わった?」

「うん。提出してきたところ」

お疲れ様、と東峰君が私に言って机の上の日誌を取った。俺も提出しなきゃ、と鞄を掴み立ち上がろうとする。

「土曜日にね、バレー部見学したんだ」

「え・・・見学?」

「うん。用事があって学校に行ったんだけど、時間もて余しちゃって」

一年生同士の試合してたよ、と東峰君に話すと、彼はあぁ、と頷いて座り直す。もうそんな時期か、と呟いて、窓の外を見る。つられて窓を見ると、もう空がオレンジから少し暗くなっていた。

「毎年やってるんだ、一年がどんな感じか見る為に・・・そっか、一年が、もう」

「サボりも程々にしないと、一年生に示しがつかないぞ!」

「ハハッ、そうだな」

「それに、あんなに美人なマネージャーがいるんだからさ!」

「清水のこと?」

「そう!すっごい美人!廊下ですれ違った事あるけど・・・バレー部のマネだったんだね」

羨ましい、と言うと東峰君は「北見さんは帰宅部じゃん」と言って笑う。東峰君の笑顔に私はホッとして、一緒に笑った。

「なんか、凄かったよ。一年生の、スパイクとか」

「へぇ」

「私、バレー良く知らないんだけど・・・引き込まれちゃった!」

「そっか」

「近くで見たら迫力もあって・・・」

東峰君は私を見ながら相槌を打って話を聞く。先程とは違う、少し寂しそうな笑顔で。何も言わない東峰君に私は何故か焦って、変な冗談を言いながらわざと明るく大袈裟に話す。

「スパイク打つ音ってすごいね!バシッてさ!皆本気だし!」

「うん」

「いいよね!青春って感じだった!」

「・・・」

「それで、その」

何を言えばいいのかわからず、私は口ごもる。東峰君はやっぱり寂しそうで、さっきの笑顔にはなってくれない。そんな顔しないで、と心の中で呟いた。

「・・・っ」

「北見さん?」

「バレー部の、皆・・・すごく、楽しそうだったから・・・」

私は一度視線を下げて少し黙った。それから恐る恐る東峰君を見て、口を開く。

「東峰君も、そうなのかなって」

「・・・っ」

「東峰君がバレーしてるところ、見たいなって・・・思った」

「・・・」

「ごめん!余計なことっ、」

「北見さん」

東峰君が私の名前を呼ぶ。ハッとして私は口をつぐんだ。東峰君はまた寂しそうな笑顔で、ありがとう、と私に言った。

「・・・私、お礼言われるようなこと、してない」

「うん」

「してないよ・・・」

何があったかなんて知らない。でも、私は東峰君が部活に行かず帰るわけでもなく、こうして教室にいることが、戻りたいと言っているようにしか思えなかった。


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2014/05/09 宙


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