休み時間、教科担任のところへ課題のノートを出しに職員室に行った時、別の教科担任に授業で使うプリントを全員分配っておいて、とノートと交換するように両手に乗せられた。重い、と文句を言うと教科担任はけらけらと笑ってよろしく、と手を振った。この間から私は先生達の手伝いばかりしている気がする。私はため息をつき職員室を出て、教室に戻った。

「よっ・・・と」

「あれ、北見さんまた頼まれたの?」

「あー、東峰君。そう、またなの。授業前に配れって・・・はぁー、腕だるいっ」

教壇の上にプリントを置き、私はブンブンと腕を振る。東峰君はお疲れ様、と言って笑った。それから手伝うよ、と言ってプリントを半分に分ける。教室の両端に別れ配っていき、私より先に配り終えた東峰君は席に戻り、私は余ったプリントを教壇の端に寄せて自分の席に戻った。

「東峰君!」

「ん?」

授業後、帰り支度をする東峰君に話しかける。私は彼にはい、と紙パックのジュースを渡した。急いで近くの自販機に行き買って来たのだ。東峰君は首を傾げながらそれを受け取り、「貰っていいの?」と私に聞いた。

「うん、毎回手伝ってもらっちゃってるから」

「別にいいのに」

「だって、東峰君も被害者みたいなもんじゃん?先生の手伝いの、手伝い」

「はは、被害者って」

東峰君はそれじゃあ一番の被害者は北見さんだね、と笑う。それから少し考えるように目線を上に上げ、ついてきて、と私に言った。戸惑いながらも東峰君について行く。東峰君が向かったのは中庭だった。中庭の自販機の前に立ち、お金を入れてボタンを押す。ガタン、と音を立てて出てきたそれを、私に渡す。

「え、貰えないよ!」

「一番頑張ってる人にあげないと、意味ないよ」

「・・・これじゃ、お礼の意味がないよ」

「いいから。あ、いちご牛乳が嫌いじゃなかったらだけど」

苦笑いをしながら東峰君は頭を掻く。大好き、と言いながら東峰君の手から紙パックのいちご牛乳を受け取った。一緒に飲もう、と中庭のベンチを指差して東峰君を誘う。私は返事を待たずに先にベンチに座った。

「ん、美味しい」

「北見さんって、しっかりしてるね」

「そう?そういうつもりはないんだけど」

「だから先生達も北見さんに頼むんじゃないかな、ちゃんと仕事してくれそうってさ」

「んー・・・」

嬉しいんだか面倒なんだか、と腕を組んで眉間にシワを寄せると、東峰君が笑った。東峰君の笑った顔は、普段の東峰君よりもずっと年相応に見える。たまにちらつくあの時の怖い顔が嘘みたいで、私は少し動揺してしまう。

「私、東峰君の笑った顔、好きだな」

「え、え?」

「え、あ、ごめん!急に何言ってんだろ、私」

ぽろ、と零れた本音が私と東峰君の顔を赤くする。手を顔の前で振って深い意味はないから、と言うが全然説得力がなかった。東峰君はただ頷くだけで私が何か言うと赤くなったり青くなったり。

「純粋に笑顔がいいなって、あれ・・・えっと」

「だ、大丈夫!俺は別に、その」

二人でわたわたと照れながら、恥ずかしさを隠すように目を逸らしジュースを飲んだ。


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2014/05/06 宙


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