3 「スガとは同じ委員会なの。一年の時に同じクラスで、席が隣で」 パチン、パチン、とホチキスでプリントを閉じていく。ホチキスを二人で交互に使いながら、私は「スガと知り合いなのか?」という質問に答えていた。プリントは担任に頼まれた明日の朝礼でみんなに配るものらしい。毎度毎度私に頼むのは止めて欲しい、とため息をつく。丁度良く教室に入ってきた彼は私を手伝うと言って、自ら犠牲になってくれた。 「スガは友達、東峰君が思ってるような関係じゃないよ」 「えっ!いや、俺は別に・・・」 「あはは、だってわざわざ知り合い?とか聞くから勘違いしてるのかなって」 「もしかして、と思って・・・」 東峰君は照れたように頭を掻いて笑う。それから「あと少しだね」と言ってプリントを見た。ありがとう、とお礼を言うと東峰君はいや、と歯切れの悪い返事をした。今は放課後。部活のない生徒はほとんど下校し、校内に残ってるのは部活に入っている生徒だけだった。東峰君は、バレー部だというのに、私の手伝いをしている。サボり、という可能性もあるが、わざわざサボってこんな面倒な仕事を引き受けるだろうか。私はプリントを閉じながら東峰君を伺う。彼が怖い人ではないと知っていても、聞くことは出来なかった。 「あの、」 「ん?」 「北見さんは、っと!」 「あっ!」 東峰君が手を動かした時、腕に机の上に置いてあったホチキスが当たった。机から滑り下に落ちていく。受け取ろうと出した手に、東峰君の手が重なる。 「・・・」 「・・・」 「っ、あ!ごめん!」 顔を見合せ固まっていたいると、東峰君がハッとして、謝りながらパッと私の手を放す。ホチキスは、無事私の掌の中だ。私は大丈夫、と言ってホチキスを机の上に置く。何に対して大丈夫と言ったのかわからなかった。 「ホチキス、落ちなかった」 「あ、うん。ごめん、ありがとう」 「・・・えっと、東峰君、さっき何か言いかけてたよね?」 気まずさをなくそうと私は東峰君に訪ねる。東峰君は「うん・・・」と頷き、手を動かすのを止めた。 「北見さんは、何で、何も聞かないのかなって・・・」 「え」 「バレー部辞めてないって、言ったのに・・・俺は部活に出ないでここにいる。不思議だと思わない?」 東峰君はそう言って私を見る。その表情に少し動揺した。 「聞いて欲しい?」 「え、いや、えっと」 「あは、ごめん。意地悪だったね」 「はは・・・」 「私は、東峰君が部活行かないのは単なるサボりだと思う!たまには休息も必要だし!」 ね、と東峰君に向かって笑うと、東峰君は驚いた表情をして、それから笑った。私は早く仕事終わらせて帰ろう、とプリントを取りホチキスで閉じる。東峰君は私のほうをじっと見て、それからまた手をプリントの方へ動かした。 「これで・・・終わり!」 「やっと終わったなぁ」 「うん!ありがとう、東峰君!」 閉じたプリントの山を見ながら東峰君にお礼を言う。私は先生のところに持っていく、と言うと東峰君は半分持つ、とプリントの山を持ち上げた。半分、というか三分の二くらいを東峰君が持ってくれた。 「ありがとう、東峰君!お陰で早く終わったよ」 「いや、いいんだ。それに俺も・・・」 「ん?」 「ありがとう、北見さん」 何が?と知らない振りをすると、東峰君はにっこりと笑って、またありがとう、と私に言った。 next ----- 2014/05/06 宙 |