どこかで何かが割れた音がした。私が音が聞こえた方向に顔を出すと、丁度廊下を歩いて来た人とぶつかった。よろけながらごめんなさい、と謝ろうと顔をあげると、同じクラスの東峰旭君だった。東峰君は私に気づいていないのか無視しているのか、怖い顔のまま廊下を歩いて行った。

「何してるの?」

「あ・・・東峰君」

放課後、クラスメイトは下校して、誰もいなくなった教室で日直の仕事をしていると、東峰君に話しかけられた。やはり昼に私とぶつかった事には気づいていなかったらしい。普段あまり話したことのない彼に話しかけられ驚きつつも、私は「日直で」と答えた。東峰君は「そっか」と言って自分の席に行き机から何かを取り出していた。どうやら忘れ物を取りに来ただけらしい。

「・・・て、手伝おうか」

「え?」

「なんか、ほら、プリント山積みだし・・・」

東峰君が私が隣の席の机に置いたプリントの山を指差す。私はプリントを見ながら、ため息をついた。

「明日、数学自習なんだって」

「え、そうなの?」

「うん。それで、課題のプリント、ホチキスでクラス分まとめろって」

東峰君が私の前の席に座る。プリントは1人分で五枚。多いよね、と文句を言うと、東峰君はそうだね、とプリントを一枚ずつ取って、ホチキスで閉じる。二人でやった方が早いよ、と笑って。

「ありがとう、東峰君」

「いや、いいんだ」

「東峰君ていい人なんだね。ほら、私達席も遠いし、あんまり話した事ないから」

「よ、よく怖いって言われるよ・・・」

「あはは!」

私が笑うと東峰君が苦笑いをする。怖いかな、と大きな体を小さく丸めて、呟く。私がぶつかった時の彼の顔を思い出しながら、「少しね」と言うとショックを受けたようで項垂れた。

「あはは、東峰君て面白いね!」

「そうかな・・・」

「うん!昼間怖い顔してたから、尚更そう思っ」

私はしまった、と口を押さえる。東峰君を見ると眉間にシワを寄せ、下を向いていた。余計な事を言ってしまった、と私は後悔する。何で彼が私に気づきもせず、あんな顔をして歩いていたのか。普段の彼は知らないけれど、きっと知られたくない何かがあるだろう。

「ま、まぁ、三年になれば悩みも増えるしね!進路とかさ」

「・・・あぁ」

パチン、とホチキスの音が静かな教室に響く。私の余計な一言のせいで変な空気になってしまった。話題を探しながらプリントをホチキスで閉じていく。外でどこかの部活動の声がした。窓の外を見るとどうやらサッカー部のようだった。円陣を組んで、気合いを入れている。

「運動部かぁ、なんか青春って感じだよね。私なんか運動音痴だから中学からずっと帰宅部」

「そうなんだ」

「友達とか、大体の人が部活に入ってるからちょっと疎外感、なんて。東峰君は、バレー部だっけ?」

「え」

東峰君の手が止まる。もしかして間違えただろうか、と不安になる。確か球技大会の種目を決める時にバレー部だからバレーには出れないって言ってた気がしたんだけど。東峰君を見ると東峰君は昼間見た怖い顔をしながら「いや」と呟いた。もしかして、私はまた地雷を踏んだのだろうか。

「バレー部じゃ、なかったっけ?」

「・・・バレー部、だったんだ」

「だった?」

東峰君は弱々しく笑い、また手を動かす。パチン、とホチキスの音が響いた。


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2014/05/04 宙


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