10 東峰君と一緒にバレー部が練習している体育館に行くと、東峰君はすぐに中に呼ばれ、何が何だかわからないまま試合をすることになった。私は体育館の壁に寄りかかり、試合を見ていた。バレーのルールは、なんとなくしか知らない。だけど、私はいつの間にか手をきつく握りしめ、試合を魅入っていた。何があったのか、私は知らない。けれど、コートの中にいる東峰君からも、トスを上げる菅原からも、ボールを繋ぐ彼、今は敵コートにいる他の部員達からも、強い熱い気持ちが伝わってくる。気づいた時に試合は終わっていて、私は黙って声を掛け合う彼らを見ていた。 「・・・」 「円っ!」 「スガ」 部員の輪の中から菅原が走ってくる。お疲れ、と声をかけると、ニヤリと笑った。 「な、何」 「あっちに、言ってあげてよ」 スガが後ろを指差す。指差した方向には東峰君。一年生と何か話しているようで、その表情は明るい。私は東峰君を見ながら、何て声をかければいいのかわからないでいた。菅原にそう言うと、菅原は笑って「何でもいいべ」と私の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。 「・・・あのっ!」 「お?どした日向」 以前教室に来ていた背の小さな一年生が私と菅原の間に入る。それから大きな声で「菅原さんの彼女ですかっ!?」と私に言った。その言葉に部員たちが一斉にこちらを向く。 「応援で来たんですか?前もいましたよねっ?」 「え、」 「菅原さん彼女出来たんすか!」 「いや、」 「羨ましいっす!」 囲まれてしまった。菅原は部員達の質問に違う違う、と手を振って否定しているけれど、正直、彼らは聞いていないように見える。どうしたらいいのか、とキョロキョロしていると、人垣の隙間から澤村君がため息をついているのが見えた。いや、助けて下さいよ、主将でしょ。 「北見さんっ!」 どうしたらいいのか、と考えていると、部員達の後ろから私を呼ぶ声がした。皆が、そちらを向く。 「あ、東峰君」 東峰君がこちらに歩いてくる。どうしよう、なんて声をかけよう。お疲れ様?おめでとう?よかったね?彼に伝えたい事がたくさんありすぎて、何から伝えればいいのか。 「あ、東峰く・・・っ、う」 「え、あれ!?」 「東峰君っ、私、」 「北見さん、泣かっ、泣かないで・・・!」 「かっこよかったよ・・・!」 東峰君を見上げ、そう言うと、東峰君は一瞬驚いて、それから「ありがとう」と笑った。 「あ、あの、北見さん、俺」 「え、まさか旭さんの彼女っ!」 「なっ!旭さん!サボってる間に彼女出来たんすか!?」 「いや、西谷、違・・・」 「彼女、か・・・」 ポツリ、と呟く。皆が黙って、私の言葉を待つ。 「いいかもね」 「え!?」 「あははっ」 「北見さん、それ、本当に・・・」 「こら!お前達そろそろ引き上げるぞ!」 澤村君の一喝で皆は体育館から引き上げる。送っていく、という東峰君の行為に甘え、私は東峰君と一緒に帰り道を歩いた。バレー部の皆は先に帰ったようで、今は二人きり。 「東峰君、バレー大好きなんだね」 「え」 「前に言ったじゃない?東峰君がバレーしてるところが見たいって」 「あ、うん」 「楽しそうだったよ!皆と一緒で・・・スパイクも、かっこよくて」 「・・・」 「だから、大好きなんだなぁって」 東峰君は私の横で、ありがとうと、呟いた。私は何もしてないのに、と笑うと、東峰は足を止め、そんなことない、と私の右手を取った。きつく握られた右手を見つめ、それから東峰君を、見上げる。 「北見さんは、俺の背中を押してくれた」 「・・・そんな、それは東峰君が、」 「俺は、へなちょこだから」 「うっ、あれは、その」 「北見さんが、側にいてくれて嬉しいんだ」 そう言って微笑む東峰君に、私は顔を赤く染める。暗いからきっと気づかれていない。いやだな、そんな顔されたらどうしていいかわからなくなる。 「それで、その・・・」 「え?」 「これからも、俺の側にいてくれたらって・・・思ってる」 「・・・」 「あ、いやっ、と、友達としてから・・・」 「東峰君」 東峰君は「はいっ!」と返事をして私を見る。 「へなちょこ!」 「わっ!ごめ、ごめん!」 謝る東峰君を笑って、帰ろう、と東峰君の手を引く。握られた右手はそのままに、私達はまた歩み出す。 end ---- 完結! ありがとうございました 2014/06/07 宙 |