体育館の前を通るとボールとシューズがキュッと鳴る音がした。東峰君を引っ張って体育館の扉に近づき、東峰君を訪ねていたあの一年生二人が練習をしているところを見ていた。

「・・・聞いたろ?あの音駒が来るんだ」

今は一年生の練習を覗きながら、私の耳は東峰君とバレー部主将の澤村大地との会話を聞いていた。練習を見ている時に、彼に話しかけられたのだ。逃げようとする東峰君を止めてから、私は空気を読んで二人から離れた。澤村君が私をちら、と見て、東峰君と話す。

「・・・けど俺は、スガにも西谷にも、合わせる顔がない」

東峰君の言葉に澤村君がへなちょこ、と言っているのが聞こえた。私は二人に背を向けたまま苦笑いをした。まさか二日連続でへなちょこ、と言われている人を見るなんて。いや、一回目は私が言ったんだけど。

「まだバレーが好きかもしれないなら、戻ってくる理由は十分だ」

澤村君の声は、確信を持っていた。東峰君はまだバレーが好きなんだ、と澤村君は知っている。澤村君がこちらに歩いてくる気配がして、私は振り返った。東峰君の表情と、澤村君の表情、どちらの表情も私から良く見える。

「旭、サボってる間に彼女が出来たなんて西谷が知ったら、怒るぞ」

「え!違っ、彼女じゃないって!」

澤村君は先ほどの真剣な表情から変わって、いたずらっぽく私に笑いかけた。東峰君が澤村君の後ろで焦っている。

「東峰君、行こう」

「・・・うん」

東峰君は体育館のほうを気にしながら、体育館に背を向けた。二人で校舎の外を黙ったまま歩く。途中自販機に寄り財布を取り出そうともたついていると、後ろから東峰君がお金を入れてくれた。

「あ、サッカー部」

私は小走りでグラウンドが見える土手に行き、サッカー部がグラウンドをいったり来たりする様子を見ながらジュースを飲んだ。東峰君は私の横に腰を下ろし、何か考えながら遠くを見ている。東峰君の真剣な表情に私は少しドキドキしてしまっている。私と話している時は大抵眉を下げているくせに、今はキリッとしていて、かっこよく見える。

「円ー!帰らないのー?」

遠くから友人達が私を見つけ声をかける。私は「バイバイ」と言いながら軽く手を振った。友人達は私に手を振り返し、東峰君を指差しながら帰っていった。あぁ、なんか勘違いされてるんだろうな。澤村君がからかったのと違って、女子は厄介だからなぁ。

「・・・北見さん、ごめん、俺」

「行く?体育館」

東峰君が立ち上がり、力強く頷いた。

「じゃあ、私は・・・」

「あ、あのさ!もし、嫌じゃなかったら・・・一緒に、行ってくれないかな?」

「え?」

「一人で行くのが嫌とかじゃなくて、その・・・」

「だって、私は・・・関係ない人じゃん」

東峰君がハッとして私を見る。ごめん、と謝って私の手を握った。

「昨日は、あんなこと言ってしまったけど・・・」

「ううん、勝手な事言ったのは私で、」

「見て欲しいんだ」

「・・・っ!」

「北見さんに、見て欲しい」


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2014/05/14 宙


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