荒北 玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、あと足りないのは何だっけ。同居人に書いてもらったメモをポケットから取りだし、それを見ながら買い物かごに入れていく。肉、と、書いてあるけれど、種類は何だろう。量はどうしたらいいのか。メモの内容からして、今日はカレーだろう。夜ご飯の事を考え、腹の虫が鳴く。そういえばお昼ご飯、食べていなかった。朝に牛乳を飲んで、それっきり何も食べていない。夜ご飯の前に、ちょっとだけお腹に入れようかな、とお菓子コーナーに移動する。 「金城君」 「みょうじ」 「買い物?」 「あぁ、今日は講義が午前しかなかったからな」 「ふうん・・・」 私と一緒だね、と金城に言いながらお菓子コーナーのお菓子を選ぶ。甘いものがいいな、とチョコレートクリームを挟んだクッキーの箱を手に取る。金城君はその横のシンプルなクッキーの箱を自分のかごに入れた。珍しいな、と他のお菓子も選ぶ金城君を見ながら思う。普段あまり食べないのに、種類が違うお菓子をかごに入れていく金城君を見ていると、金城君が私の視線に気づいてこちらを見た。 「金城君、お菓子食べるの?」 「これか?これは週末、友人達と集まるからその買い出しだ。お菓子係になったからな」 「へぇ・・・」 「荒北に聞いていないか?自転車部の一年で集まるんだが」 同居人の名前が金城君から出てくる。聞いてないよ、と言うと金城君は笑いながら、ちなみに荒北は飲み物係だ、と言いポテトチップスをかごに入れた。飲み物係、と聞いて私は苦笑した。きっと帰ってきたら文句を聞かされる。じゃんけんで負けたのかな、と金城君に聞くと、正解だ、と笑った。 「荒北は何が好きなんだ?」 「え?」 「お菓子」 「うーん・・・あ、これ好きだよ」 「じゃあ買っていくか」 そう言いながら私の手からお菓子を受け取り、かごに入れた。お菓子でいっぱいになったかごを見ながら金城君はこれくらいか、と呟いた。いっぱいだね、と言うと人数が多いからな、と苦笑した。みょうじは何を買いに来たんだ、と聞かれ、先ほどのメモを見せる。金城君、お肉は何の種類を買えばいいの、と肉の文字を指差して聞くと、俺は鶏肉を使ってる、と教えてくれた。 「ありがとう、じゃあ鶏肉買っていく」 「カレーか?」 「多分。靖友が作るの。私、料理出来ないから」 「料理サークルじゃなかったか?」 「うん。練習のつもりでね、でもこの前、千切りが出来なくて指を切っちゃった」 ほら、と絆創膏を巻いた指を見せる。気をつけろよ、と言って金城君はとレジに向かった。私も早く買い物を終わらせなければ怒られてしまう。メモにかかれた食材の残りは肉と、マヨネーズ。あぁ、お肉の量も金城君に聞いておくんだった。 「ただいま」 鍵を開け部屋のドアを開けながら声をかける。返事が返って来ないところを見ると、まだ帰宅していないらしい。時計を見ると夕方の5時をさしていた。授業は終わっているはず。もしかしたら部室に寄っているのかもしれない。買ってきたものを冷蔵庫に入れ、クッキーだけ机に置いておく。飲み物を用意しクッキーを開けた。甘い香りが食欲をそそる。あんまり食べると怒られるから、数枚だけお皿に取りだし、箱の蓋を閉じた。テレビを見ながらクッキーを食べていると、玄関から鍵を開ける音がして、ドアが開く。ただいま、と声が聞こえて、おかえりなさい、と返事をする。 「まぁた買い食いしてる」 「お昼食べてないの、だから」 「我慢しろヨォ、夕飯すぐなんだから」 「ちょっとだもん」 同居人、恋人の荒北靖友が呆れた顔をして私の隣に座った。クッキーの箱を手に取り、甘そう、と眉間にシワを寄せる。私がお皿に取ったクッキーを1枚、靖友が食べる。 「こんなん食うから太るんだろ」 「え、太った?」 「ちょっと、さわり心地が良くなった気がするけどォ?」 靖友が指で私の横腹をつつく。止めろ、とその指を叩くとニヤニヤしながら指を引っ込めた。もう一枚クッキーを取って、靖友は立ち上がる。夕飯の支度をするらしい。メモ通り買ってきたか、と言いながら冷蔵庫を開け、食材を取り出す。 「買ってきたよ。あのね、お肉は何の種類が良いかわからなくて」 「何でも良いヨ」 「でね、金城君と会ったから、聞いたの」 「金城?」 「うん。買い出しに来てた、靖友も行くんでしょ?」 そう言うと靖友が行く、とだけ言う。飲み物係になったんだってね、と金城君に聞いた事を話すと、靖友はまな板を用意しながら最悪だ、と少し苛立った。何で俺一人であの人数の飲み物を、と文句が聞こえてくる。つい笑ってしまうと、靖友から笑ってんじゃねぇ、と怒られてしまった。お前も手伝え、と言われピーラーを渡される。それなら指も切ったりしねぇからな、と靖友に笑われ、足を踏んでやった。 「金城君はお菓子係なんだってね」 「そうだっけかなァ」 「うん、言ってた。靖友の好きなお菓子聞かれたよ」 「ふうん、何て言ったの」 「・・・靖友が嫌いなお菓子進めといた」 「嫌がらせかヨ」 うん、と頷くと靖友はしばらく黙ったまま玉ねぎを切り、カレーなし、と小さく呟いた。 カレーなし、と言っていたものの、カレーが出来上がりテーブルに出てきたカレー皿にはご飯の上にたっぷりカレーが乗っていた。美味しそう、と言うと美味しいよ、と靖友が答える。サラダは私が作った。とは言ってもレタスをちぎってミニトマトを飾っただけだが。 「週末、泊まってくるからね」 「そうなんだ。集まって何するの?」 「レースのDVD見たり」 「ふうん・・・」 「・・・寂しい?」 そう聞く靖友に強がって別に、と言ってカレーを食べた。美味しい、と言うと靖友がありがと、と笑った。 「同棲したてだしネ、俺もちょっと心配なんだけど」 「だから、寂しくないってば」 「なまえチャンの嘘つき」 ニヤリと笑う靖友を無視してカレーを頬張る。顔が熱いのは、カレーが辛いせいだ。 「なまえ」 「うん」 「週末構ってあげられない代わりに、今日はいっぱい可愛がってあげるヨォ」 テーブルから身を乗り出して軽く唇が触れる。靖友には、全部お見通しなんだな、と思って小さな声で寂しい、と素直に言った。 「ん、う・・・」 「カレーの味がする」 「・・・当たり前でしょ」 「食べてからしよっかァ・・・」 お皿に残ったカレーを見ながら靖友が呟く。うん、と返事をして、残っているカレーをまた食べ始めた。 ----- 同棲シリーズ。 同棲シリーズはただただキャラと同棲したら、を書いてるだけだから一個のお話の終わりが見えない。延々と書いていられそう。 2014/09/20 宙 |