金城

早朝、必ずアラーム音で起こされる。私の横で寝ていた同居人が二度寝もせずにしっかり起きて携帯電話のアラームを止める。静かにベッドから抜け出して枕元に置いてある眼鏡をかけ、出かける準備を始める。今にもつむってしまいそうな目を開けて、自転車用ジャージに着替えている彼の後ろ姿に向けて「いってらっしゃい」と呟いた。こちらを振り返り笑う彼の顔を見て、私はまた眠りに落ちる。

「・・・なまえ」

二度目のアラームは、彼の声。少し体を揺すられて、低い声で名前を呼ばれる。ゆっくり目を開けると、私服に着替えている真護君の姿が目に入った。お帰りなさい、と言いたかったのに、寝起きだからか口が回らない。言葉になっていない言葉に、真護君はただいま、と返してくれた。ベッドから起き上がり目を擦る。あくびを一つして、自分の携帯電話の時計を確認した。

「・・・今日は早かったね?」

「あぁ、少し霧が出ていてな。いつもより短いコースにしたんだ」

「ふうん・・・」

「朝ごはん、食べれるか?」

「・・・うん」

準備する、と彼がキッチンに向かった。私は体を壁の方にずらして、もたれ掛かる。低血圧のせいですぐに起き上がれない私の為に、朝ごはんは真護君の担当になっている。コーヒーの香りが部屋に漂う。あぁ、朝ごはんが出来たんだなぁ、とまだボーッとする頭で思う。なまえと声をかけられ、つむっていた目を開けた。

「大丈夫か?」

「うん」

「コーヒー、カフェオレにして甘くしておいた」

「ありがとう」

ようやくベッドから抜け出し、真護君が用意してくれた朝ごはんを食べる為にテーブルにつく。サラダとトースト半分、甘い匂いのカフェオレ。いただきます、と言うと真護君が残してもいいからな、と毎朝お決まりの言葉を言う。元々他人には優しいけれど、やっぱり私には特別優しいのかもしれない。高校時代に彼の部活仲間に甘やかされ過ぎ、と言われた事がある。同棲するようになって、それを実感した。

「甘い」

「甘過ぎたか?」

「ううん、カフェオレじゃなくて」

真護君が何だ、と自分のコーヒーを啜る。あっちは砂糖もミルクも入っていない苦いコーヒーだ。真護君は自分に厳しいもんね、とそんなことを思った。

「甘いのは、真護君の優しさね」

「ん?」

「荒北君にも、そのうち言われちゃうかも」

「なまえ、話が見えないんだが」

困った顔をして私を見る真護君。いいの、と言うと気になるだろ、と差ほど気にしていないような顔で言った。

「真護君が、私に甘すぎるって話」

「甘いか?」

「うーん、他のカップルがどうなのか知らないけど、多分、こんなにお世話してくれないと思うの」

「世話してるわけじゃないんだが・・・」

「だって、朝、自転車で走りに行って疲れてるのに」

ごめんね、と謝ると真護君は私の正面から横にずれて頭を撫でる。気にするな、と言うように優しく。

「朝は仕方ないだろう、なまえは動けないんだから」

「・・・」

「それに、疲れるまで走ってないさ。午後も走るんだからな」

「・・・真護君」

真護君の服の腕をぎゅっと掴む。額に口付けられて、真護君の胸に体を預けた。遅刻するぞ、と言う真護君にやだ、と言いながらぐりぐりと胸に顔を押し当てる。優しい声でこら、と怒られた。

「砂糖とミルクは真護君の優しさだわ」

「カフェオレの話か?」

「うん。真護君のコーヒーは無糖で、自分に厳しい真護君そのものだもん」

「なまえのは、」

「真護君の優しさがいっぱいだから、甘いの」

あと、愛も。そう言うと真護君が笑って、そうか、と呟いた。


end
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金城さんに甘やかされたい。


2014/08/24 宙


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