放課後、体育館前 「山口君!」 可愛い女子に話しかけられても、大体ツッキーのことばかり聞かれる。もう慣れてきてしまい、期待することもなくなった。 「あの、つ、つき」 今回もそうなんだろうと思ってツッキーのかっこいいところを三つくらい言う準備をしていた。 「付き合って下さい!」 「へっ!?」 だから、こんなこと想像もしてなかった。パニックになった頭でぐるぐると考える。確か、5組の女子だ。前に谷地さんと話しているのを見たことがある。もしかしたら罰ゲームなのかも。いや、それよりもここ、この場所は、体育館前。体育館の扉からは先に来ていたツッキーに影山、日向もこっちを見ているし、反対側の廊下からは三年の先輩がちょうど来たところ。待って、待って、ほぼ部員全員に目撃されてるんだけど。 「・・・」 「わ、私、5組のみょうじなまえです・・・山口君は、私の事知らないと思うけど、私、入学式で隣に並んでて」 「・・・あっ」 「覚えて、る?」 「う、うん。教頭のカツラで一緒に笑ったよね」 入学式で教頭が挨拶をしている時、あまりにも明らかな教頭のカツラで周りはクスクス笑っていて、けれど、隣に並んでいた女子は何で皆が笑っているのかわからないようで、キョロキョロしていた。こっそり教えて、「気づかなかった!」と言うその子と二人で笑ったのは覚えている。 「その・・・廊下で見かけたり、したんだけど、いつもメガネの男の子と一緒で話しかけられなくて」 「あ、うん」 「それで、見てるうちに、山口君のこと・・・す、好きに、なっちゃって」 好き、と言われていきなり顔が熱くなる。これ、罰ゲームなんかじゃない、マジのやつだ。どうしよう、とすでに限界の頭でまたぐるぐると考える。 「私・・・可愛い訳じゃないし、趣味も平凡だからつまんないかもしれないけど、」 「えっ、いや、そんな」 「山口君のことは、大好きだから・・・」 「っ!」 「付き合って、下さい」 「・・・はい」 口から出た言葉はそれだけだった。顔を上げたなまえさんは真っ赤な顔で嬉しそうに笑っていた。多分、俺もこのくらい真っ赤なんだろうな、と思いながらつられて笑った。 「あっ、部活の前にごめんね、ありがとう」 「あ、うん。・・・ハッ」 なまえさんに「部活の前」と言われて恐る恐る体育館のほうを振り向くと、部員がニヤニヤした顔でこちらを見ていた。田中さん、顔が怖いです。 「じゃあ、またね」 「・・・うん、またね」 照れた顔で手を振りながら廊下を走っていく。きっとからかわれるんだろうな、と思いながら俺は体育館に戻った。 end ---- 2014/06/24 宙 |