Happy birthday!

誕生日、だった。朝、兄貴に「おめでとう」と言われるまで忘れていた。何枚かバースデーカードが届いており、メールを見ると小野田からメッセージが届いていた。そして日本時間の0時で送ったと思われる、東堂からのメール。電話が来ていないのは珍しい。毎年誕生日の日はしっかり0時に電話がかかって来ていた。とは言え、それは日本にいた頃の話で、今年は時差のある海外。日本時間の0時に電話をしても、こちらはまだ誕生日の前日だ。東堂もそれをわかって電話をしてこなかったのだろう。

「巻ちゃん、誕生日おめでとう!」

頭の中で声を思い出す。毎年祝ってくれていたやつがいないのは、少し寂しく感じる。その日はわざわざ箱根から千葉まで自転車で来て、プレゼントだと言って花束を持って来る。男に花束を贈るやつは、きっとあいつだけだろう。7月7日は、日本では七夕だ。ロマンチックな日に生まれたな、なんて言って、頬を撫でられた。織姫と彦星みたいに年に一回しか会えないなんて嫌だけど、と肌を触れあった。今は、織姫と彦星の気持ちがわかるかもしれない。

「・・・もしもし」

携帯電話が着信を知らせる。着信は東堂からだった。タイミングの良いやつだ、と思いながら電話に出る。電話の向こうから聞こえる東堂の声は相変わらず元気そうで、何故かこの声に安堵する。きっと3年間毎日のように電話していたせいだ。

「巻ちゃん!誕生日おめでとう!」

「クハッ、言うと思ったっショ」

「当たり前だ!本当はジャストの時間に言いたかったのだがな」

「無理っショ、日本とじゃ時差がある・・・けど、ありがとな、東堂」

本当は、会いたかった。とは言わず、電話ありがとう、とだけ言っておく。会いたいのは、俺も東堂も同じ。言ってしまえばきっと気持ちが抑えられなくなる。日本とイギリス、あまりにも距離が遠い。日本にいた頃の距離さえ、もどかしいものだったのに。

「巻ちゃん、プレゼントがあるんだ」

「プレゼント?何か送ってくれたのか?」

「あぁ、そうだ。今日は特別な日だからな」

「何だよ、もったいつけるなっショ」

「何光年も離れている織姫と彦星ですら、この日は一年に一度は会えるんだ、巻ちゃん。だから、」

チャイムの音が聞こえる。携帯電話を耳に当てながら、玄関の方向を見る。まさか、そんなわけない。きっと、タイミングが重なっただけ。荷物か、何かのはずだ。巻ちゃん、と東堂が呟く。

「会いに来たぞ」

携帯電話を投げ出し、玄関に向かう。扉を開けると、電話の相手が、そこにいた。

「尽八・・・」

「誕生日おめでとう、巻ちゃん!」

目の前に差し出されたのは、真っ赤なバラの花束。

「会いたかったぞ!」

「・・・俺もっショ」

花束を受け取り小さく呟くと、東堂は花束ごと俺を勢いよく抱き締めた。


end
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巻ちゃんおめでとう!
遅くなったけど!


2014/07/08 宙

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