プレゼント

「石やんの誕生日?何言うとんの、今日やで」

「え」

もっていた空のボトルを床に落とした。何しとんの、と井原君がそれを拾い、私に渡す。受け取ることも忘れ、私は井原君の手にあるボトルを見つめながら一人ショックを受けていた。

「・・・あかん」

彼と知り合ってから、彼の誕生日なんて特に気にしたことはなかった。私と彼、石垣光太郎君はただの同級生で、部活の主将とマネージャーというなんてことない関係だったから。けれど、私は彼に恋をした。いい人、くらいにしか思っていなかった彼の事を、今は眩しくて見れないくらい好きになってしまった。だから、今更彼を知ろうと彼の友人である井原君に誕生日を聞いたのに、まさか、今日だとは。いや、過ぎてなくてよかった。それよりはマシ。でも、今日だとしても、もう部活は終わるし、彼と話せる時間も限られてる。プレゼントなんて買いに行く暇もない。

「おーす、お疲れ」

「あ、石垣君。お疲れ様」

「何やっとるん?ボトル真ん中にして」

井原君が私に渡そうとしていたボトルを見ながら石垣君が笑う。私は慌ててそれを受け取り、井原君にごめん、と謝った。石垣君の後からどんどん部員が入ってくる。このままじゃ皆が着替えを始めて私がいる場所がなくなってしまう。その前に、何か、石垣君に。

「石垣君、あの」

「ん?」

「今日誕生日やろ?」

「あぁ、よぉ知っとったなぁ」

「井原君に聞いてん」

私がそう石垣君に話しかけると、部員が「石垣さん誕生日なんですか!」と割り込んでくる。「おめでとうございます!」と私よりも早く。石垣君もそちらを向いて「ありがとう」と笑っている。今は私が話してるのに、なんて心の狭い事を思ってしまう。

「あのな、そんで・・・プレゼント、渡したかったんやけど」

「ええよ、そんなん。知っとってくれただけで嬉しいわ」

「でも、あげたいんよ。けどな、私、石垣君の誕生日知ったの今日やから」

用意出来へん、と言うと石垣君は笑って私の頭をポンポンと叩く。「気持ちだけで充分や」と言いながら。

「いやや・・・石垣君、欲しいもんない?私、何でも用意するから」

「ええって」

「何でもええんよ!日頃のお礼も込めて、いくらのもんでも買ってくるし!」

石垣君にそう迫ると、石垣君は苦笑いをして私に落ち着け、と言ってなだめる。石垣君の後ろからキモ、と御堂筋君の呟きが聞こえた。

「そうやなぁ・・・何でもええの?」

「うん、石垣君の欲しいものやったら何でも」

「ホンマに何でもええんやな?」

「うん!」

「・・・みょうじ」

石垣君が私の名前を呼ぶ。はい、と返事をすると面白そうに笑った。

「みょうじが欲しい、言うとんのや」

「は・・・」

「アカンか?」

石垣君の言葉に、私は再びボトルを床に落とした。また、井原君が拾う。誰かが口笛を吹いた。

「よ、喜んで!」

「ははっ、最高の誕生日プレゼントや」

石垣君が私を引き寄せる。ぎゅっ、と抱き締めて、「ありがとう」と囁く。

「誕生日、おめでとう・・・大好きや」

「俺もや、なまえ、ありがとう」


end
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キミィ達、ここ部室やで。
って御堂筋君が、言って我に返るはず。

石垣さん誕生日おめでとう!


2014/06/05 宙

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