学ラン

「・・・なまえちゃん、手さっきから止まってるで」

「だって、わかんないんだもん」

放課後、テスト期間で部活も休みの御堂筋君と一緒に誰も居なくなった教室でテスト勉強をしていた。テスト勉強、と言っても御堂筋君は頭が良い為、勉強しているのは私だけで、御堂筋君は自転車雑誌を読みながら私がわからない問題を教えてくれている。何度もわからない、と御堂筋君に訴えると、御堂筋君はため息をついて呆れた表情で私を見る。

「何でこんな問題もわからへんのォ?公式に当てはめて計算するだけやで」

「だから、その公式がわかんないの」

「・・・なまえちゃん、赤点決定やな」

酷い、と言うと御堂筋君は雑誌で口元を隠して笑った。それから休憩、と立ち上がった。どこに行くの、と聞くと飲み物買ってくる、と教室を出ていった。「なまえちゃんはちゃんと勉強してるんやで」と言い残して。彼を見送りながら私はシャーペンをくるくると回す。目の前にあるテスト用のプリントを見つめても解ける気がしない。公式っていっても、公式っていっぱいあるじゃん。意味わかんない、と心の中で文句を言って私はシャーペンを机に置いた。

「・・・御堂筋君、まだかな」

前の席には御堂筋君が置いていった学ランがある。着てみたい、とふと思い立って、実行してみる。私と彼では身長が大分違うこともあり、当たり前だがブカブカだった。丈も袖も、余り過ぎている。こんなところ見られたらいつもみたいにキモ、って言われるんだろうな。御堂筋君が戻ってくる前に脱がないと。あぁ、でも御堂筋君の匂いがする。

「・・・なまえちゃん」

「っ、御堂筋君!いつの間に!」

「ちょっと前・・・それ、ボクの学ランやで」

「う・・・」

戻ってきた御堂筋君が私が着ている学ランを指差す。焦ってその学ランを脱ぐことも忘れ、私は両手をぶんぶん振って違う違う、と何故か否定した。御堂筋君が首を傾げて、何で着てるん?と問う。

「き、着てみたくて」

「キモ」

「ごめんなさいっ!脱ぐね!すぐ!」

「別にええけど」

御堂筋君の言葉に私は固まった。今、いいって言った?固まった私に御堂筋君は缶ジュースを差し出す。袖を捲りながらそれを受けとると、ブカブカやね、と御堂筋君が言った。

「う、うん」

「・・・プリント進んでへん」

「わかんないだって」

「学ラン着てる暇あるんやったら解き。ほら、勉強するんやったら邪魔やろ、脱ぎ」

「・・・うん」

着ていた学ランを脱ぎ、御堂筋君に手渡す。御堂筋君の匂いが離れて行ってしまう。残念だなぁ、なんて思いながら私はまたプリントに向かった。

「御堂筋君に抱き締められてるみたいだったのに・・・」

「・・・」

「っ、あ、いや、何でも」

「なまえチャァン」

ごめん、と謝ろうとした時、御堂筋君が私の名前を呼ぶ。またキモイって言われるんだろうか。いや、確かに今の私はキモイけど。

「抱き締めるくらい、したってもええよ」

「え?」

御堂筋君を見ると、雑誌で顔を隠していた。でも、耳が、真っ赤だった。


end
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2014/06/05 宙

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