証拠

「きゃー!東堂様ー!」

全く、キャーキャーと毎日毎日飽きないものだ。部活が始まる度に聞こえてくる女の子達の声。部活が無い日は校門にファンクラブらしい女の子達がたまって、今か今かと彼が出てくるのを待っている。彼の名前を書いたうちわとか幕を持って、彼が出てくれば悲鳴を上げていつものやつ、とポーズをお願いしてる。あんなの見たってなんの特にもならないのに。大体、それに応えるあいつもあいつだ。無視でもしていれば、今頃女子ファンなんていなくなってたかもしれないのに。いちいち応えるから、彼の人気は、今でも増えているのに。

「地に落ちろ東堂」

「なっ、何だ急に!」

「別に」

久しぶりに部活が休みだから一緒に帰ろう、と誘われ喜んでいたのに、校門でのファンクラブと彼のやりとりでそんな気持ちは女子ファンの悲鳴と共にどこかに飛んでいってしまった。彼女、という存在がいても、全く減ることのない彼のファンは、私にとって非常に重大な悩みだった。ファンクラブなんてものがなければ私は不安になることもないし、嫉妬なんて醜い感情も沸き上がらなかったし、彼を疑ったりもしなかったはずだ。多分。それにもう少し、素直になれたはず。

「怖いぞなまえ、眉間にシワが寄っている」

「誰のせいよ」

つん、と私の眉間を突っつく尽八の指を払いのけると、尽八は笑って「俺のせいか!」と言った。わかっているならなんで笑っているのか。ファンサービスよりも彼女のご機嫌取りをしなさいよ、と口には出さずに文句を言った。可愛いなぁ、なんて頭を撫でても私は許さないんだから。

「そうだ、なまえ!駅前のカフェに行きたがっていたな、寄って行くか?」

「・・・いつの話よ」

もう先々月の話だ。駅前に可愛いカフェがオープンして、一緒に行きたい、と話した。けれど放課後は部活ばっかりで、休みの日も千葉に行くとか言って全然予定が合わなかった。友達が彼氏と行った、なんて話を聞きながら、私は羨ましいと思う反面、諦めていた。もう、忘れちゃってるんだと思ってた。

「ん?もう行ったのか?」

「行ってないけど」

「ならば行こう!ほら!」

手を差し出され、私はおずおずと左手を重ねる。手なんて、久しぶりに繋いだ。尽八の手はあったかい。この温かさを忘れていたのは、私の方なのに、「なまえの手はあったかいな」と笑う。

「・・・ほだされない」

「なまえ?」

「尽八は・・・」

「ん?」

私と女子人気、どっちが大事?なんて、聞ける訳がない。私を選んでくれるとわかっていたとしても、彼女なのにそんなのと張り合ってるなんて少し自分が惨めになる。彼女だから、なんて余裕、私にはないんだよって、わかって欲しい。尽八は、ナルシストだからそんなこと思ったりしないかもしれないけれど。

「あ、腹立ってきた」

「どうした、今日は!」

「だから、尽八が」

「ふむふむ、俺が悪いのだな」

「くっそ、何その余裕!」

「おっと」

繋いだ手を離そうとするが、尽八はそれを許してはくれず、逆に引き寄せられた。私が怒っているのに尽八は余裕の笑みで、顔を近づけてくる。あぁ、そういえばキスなんてずいぶん前にしたっきり。でもこんな道の真ん中で、そんなこと。

「わ、」

コツン、と額と額がくっつく。これはこれで恥ずかしい。きっと真っ赤になって変な顔をしている私に、尽八は可愛い、と呟く。

「俺は嬉しいのだよ、なまえが妬いているのが」

「・・・っ」

「愛されている証拠だな」

「じゃあ、それ・・・私にもちょうだい」

「ん?」

「尽八に、愛されている証拠」

私だけ不安で妬いているのはずるい、と尽八に言うと、尽八は私の頬を撫でて、口づけた。だから、ここ、道の真ん中。

「触れるのも、キスをするのも、なまえだけだ」

「・・・ずるい」

「好きだよ、なまえ」


end
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2014/06/03 宙

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